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告白(6)

『美穂と別れたくない! 一生秘密にしておこうか?』

 そうも思ったが、しかし純粋過ぎる彼の心はそれを許さなかった。ホテルのベットの中で激しく愛を確かめ合った二人だったが、金雄の様子が何時もと違っていた。


「どうしたの、今日はなんか変よ?」

「服を着てちょっと椅子に座ってくれないか。俺の一番の秘密を今日は話したいんだ。それで俺が嫌いになっても別に構わないから」

 何時に無く真剣だった。二人はちゃんと服を着てテーブルに向かい合って座った。


「俺は、……俺は、……何人も人を殺してる。大怪我をさせた人も何十人も居る。俺はそういうとんでもない男なんだ」

 金雄は悲痛な表情で告白した。しかし不思議に美穂は驚かなかった。彼のすさまじい生い立ちを考えれば十分に有りうる事だった。

 野生の真っ只中に生きて来たこの男が、人の一人や二人殺していたとしても、何ら不思議ではない。そうすんなり考える事が出来るほど、美穂の金雄に対する情は深かったのである。


「何と無く分かってた。人を嫌う感情をお母さんに植え付けられていたのだったら、ある程度やむを得ないと思うわ。でも今は違うんでしょう?」

「うん、今は余程の事が無い限り人を殺す事は無いと思う。天空会館の本部道場と色々あった後は誰も死んでいない筈だ」

「ええっ! 天空会館本部道場?」

 美穂はちょっと信じられないといった顔になった。しかしこの男なら有り得ると思い直した。


「天空シティにある、本部道場の幹部の何人かを殺した」

「ああっ! 最近噂になっているエムって、貴方の事だったのね。ひょっとすればと思ってたんだけど、やっぱりそうだったんだ」

「噂になっていたのか?」

「何十人も殺したとか、何百人にも怪我をさせたとかね。でも面子めんつがあって表沙汰にしてないとかの噂がしきりに聞こえて来るわ」

「それはちょっと大袈裟だけど、あの状況で殺さない事に気を配っていたら、こっちが殺されていたんじゃないのかなと、思っているんだけどね……」

 金雄は幾分言い訳気味に言った。


「はーっ! 驚いたわね、あちこちで噂になっている強い男というのが、全部私の彼だったなんてね。……でも、どうしてエムなんて名乗ったの?」

「俺はローマ字は七十パーセント位しか理解出来ないけど、自分の名前位は分かる。エム・ユウ・ジー・イー・エヌ。それでムゲン。

 漢字が分かっていたらちゃんと名乗ったんだけど、分からなかったから頭文字のエムにして置いたんだよ。ムゲンと本名を言った時、漢字はどう書くって聞かれて、分かりません、じゃ格好悪くて」

「はははは、単純な理由だったのね。じゃあ小森金雄は?」

 美穂は楽しそうに聞いた。


「店の店員とか、ウェートレスとかじゃなく、格闘家でもない普通の人と話をしたのは、大森かなえという人が最初だった。

 天空会館の受付にいた人なんだけど、その人の名前をちょっと変えたんだよ。大森を小森にして、かなえは『かねお』に直して、金銀の『金』、雄雌の『雄』という漢字を当てて『金雄』にしたんだ」

「ぷっ! ふふふ、単純なのねーっ!」

 美穂はかなり思いっきり噴出した。


「はははは、お、可笑しいか?」

「だって、天下の天空会館の幹部を総なめにした人の名前とも思えない、平凡な名前なんだもの」

「もっと強そうな名前の方が良かったかな」

「ううん、今となればかえって目立たなくて良いわ。でも天空会館側では何もしないのかしらね」

「いや多分追って来ていると思う。でもあの当時の俺と今とじゃあ外見が全く違う。あの頃は髭も髪もぼうぼうに伸ばしていたから、今だったら多分、分からないんじゃないのかな?

 俺は天空会館から逃れた後、何かの時の為に大樹海に隠しておいた全財産、と言っても数万ピース位しかなかったんだけど、それを持って、一緒に隠してあった服に着替えて、やっぱり隠して置いたはさみで髭も髪も短く切って、それから理髪店に行って今風の髪型にして貰ったんだ。

 道場に行った時に着ていたボロの道着は捨ててしまって、ジーパンにシャツを着たありふれた青年になったからね。理髪店で鏡に映った自分の姿を見たけど、まるっきり別人みたいだった」

「ああ、そうなんだ。それを聞いて安心したわ。本人にも分からない位だったら、他人にはもっと分からないものね。……あの、この際聞いておこうかな。ねえ、私を最初に助けてくれたのは偶然? それとも……」

 美穂は前々からちょっと気になっていた事を聞いてみた。

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