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恐怖の賭け(31)

「そう言われてみればそんな事を言っていました。でもまさか……」

「お兄さんは貴方の病気の事が気になっていたのでしょう。しかし浜岡は、温情など一欠片ひとかけらも無い男です。そこのところが譲治さんには分かっていない。

 今頃はこっちの情報を浜岡は掴んでいるでしょう。とすれば先制攻撃あるのみです。待てば待つほど不利になります。それでは翔さん、それとリカさん、あなた方は譲治さんをここで引き止めていて下さい。

 そうしないと俺と譲治さんが戦う事になりそうです。そうなったら悪いのですが、殺さざるを得ません。……じゃあ俺は行きますから。後を頼みます!」


 夢限は素晴しいスピードで部屋に入って行った。幸いだったのは入り口に鍵など掛っていなかった事である。否、この部屋の入り口には鍵が元々無い。

 人質の部屋にのみ鍵は付けてあった。用心深い筈の浜岡だったが事態の急展開に、彼自身、十分には付いて行けなかったのだ。


 夢限が部屋に入って直ぐリカが言った。

「翔君、私も行くから」

「しょ、翔君? ひょっとすると君は……」

「ああ、意気地無しじゃ無い方のリカだよ。相手が浜岡だと幾ら夢限でも一人じゃ心配だよ。後は頼んだよ。兄貴の事だけど、つべこべ言ったら構う事はない、殺しちまいな。

 仲間を裏切る様な奴は、兄でも何でもない。ああ、そうそう、何かの役に立つかも知れないから、懐中電灯は貰って行くわよ。じゃあねっ!」

 リカもまたあっと言う間に部屋の中へ入って行った。


『もう一人のリカさんの方が、身体能力が良いかも知れない。同じ体なのに能力の差まで出て来るものなのかな?』

 翔が呆然としている所に、譲治が気楽な感じでやって来た。その様子から翔は彼の裏切りを確信した。


「あれ? 翔さん、リカは? それに夢限さんは?」

 譲治の軽さに翔は怒りを爆発させた。

「う、裏切り者!」

「な、何を言っているんですか、何を根拠にそんな事。幾ら翔さんでも言って良い事と悪い事がありますよ!」

 譲治は段々事態が飲み込めて来た。自分の裏切りが発覚したのだ。


『リカか? いやそれは違う。とすれば夢限か! そうに違いあるまい。あの男は変に勘の鋭い所があるからな! くそう、このままでは、今度はこっちが浜岡先生を裏切ったことになる。早く行って、裏切りではない事を説明しなければ!』

 譲治は何とかその場を繕って早く部屋に入ろうと思った。


「と、とにかく、私達も行きましょう」

「ここを通す訳には行かない。夢限さんと、リカさんとに頼まれた。この命に代えても阻止する!」

「くっ、止むを得ない。力ずくでも通る!」

 翔と譲治は初めての対戦である。しかも命を落す程の激しいものになることは、避けられそうにも無かった。


 総合的な技量はほぼ互角であった。しかし二人ともルール無しの戦いは経験が無い。金的蹴りもあれば、顔面への素手の攻撃もある。

 どちらも命に関わる。力量に差があれば思い切って突っ込んで行く事も可能であるが、差が無い場合にはそうは行かない。


 しかも二人とも世界的な水準なのだ。夢限には二人とも一蹴されたが、彼は桁違いなのだ。普通の意味では世界チャンピオンに迫る力量なのである。その素手の破壊力は相手を即死させるのに十分だった。


『迂闊に突っ込めば、リーチの僅かに長い譲治の方が勝るな』

 翔はそう考えたが、

『相打ちを狙って来られると、少しだが自分よりパワーのある翔が勝るかも知れない』

 譲治はそう考えていた。互いに判断に迷いがあって迂闊に突っ込めないでいた。


 それでも決着はつけなければならない。向き合って睨み合ったまま、少しずつ少しずつ互いに間合いを詰めていった。


『時間が長くなると、放射線に汚染された自分の方が圧倒的に不利だ。良し、後五、六センチ間合いを詰めたら突っ込むぞ。相打ちでも構わん!』

『何時までもぐずぐずしてはいられない。浜岡先生に取り成して貰う為に、何としてでも一分以内に決着をつけなければ!』


「ウリャーーーッ!」

「ドリャーーーッ!」


 ほぼ同時に突っ込んだ。互いに拳による顔面打ちを狙った。相打ちだったが倒れたのは翔だった。翔は視力がかなり低下していた為に、顔の中心を少し外して譲治の頬を打ったのに過ぎなかった。

 勿論、それでも相当のダメージを与えたが、致命傷にはならなかったのである。一方で翔は顔の中心を正確に打たれていた。

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