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恐怖の賭け(30)

「ふう、危ない危ない。まさか鼠どもが生き残っていたとはな」

「でも、わざわざ其れを教えてくれる人がいるなんてねえ。ふふふ、何処までも幸運が付いて回るのよね、私達には」

 東郷美千代はにやにや笑いながら浜岡と話した。浜岡は目の前に並んでいるモニターに向って言った。


「親愛なる人質の諸君、ご覧の通り、私には、どうやら天も味方している様だ。よく考えたまえ、私に従うのならば、少なくとも命は助かる」

 何台かあるモニターに映っていたのは、過激な三組の著名人、ミランダ婦人、ロレーヌ王国国王夫妻、宗教家のイージー氏だった。


 浜岡の言葉は、それぞれの国の言葉に翻訳されて彼等に伝えられた。しかし彼等はまだ誇りを失ってはいなかった。

「ノォーーー!」

 彼等は口々にそう叫んだのである。


「ふっふっふ、強がっているのも今のうちだ。読めなかったのだろう? 貴賓席のトリックを。まさか貴賓席ごと下に移動する等とはね。その上一人ずつガードロボットと一緒に自動的にここまで運んで来られるとは、想像も出来なかっただろう?

 しかも私達にばかり観衆もマスコミも注目していたから、君達のいなくなった事は誰にも知られなかった。もう何年かしたらここはムーンシティ並に大きな地下都市になる筈だったんだが、色々と計画の変更があってね。

 通路もリニア式のエレベーターで縦にも横にも動けるものにしたかったんだが、裏切り者がいてそれも駄目になった。裏切り者と言えば、言わば諸君らは裏切り者だ。ついこの間までは親しくしていたくせに、落ち目になると手の平を返した様な態度を取る。

 それでいて、一種の和解金を出すから今まで通り付き合ってくれと言ったら、金だけが目当てでのこのこやって来るのだから呆れる!

 それでも俺は寛容な男だ。明日の朝まで待ってやる。明日の朝返事を一人ずつ聞く。ノーと答えた者は、即刻射殺する。

 イエスならそれなりの仕事をして貰う。こちらの命令に従って仕事をしている限り、命は保障するし、飲み食いも休養も自由だ。今日のところはここまでだ。これから明日の朝までよく考えておく事だな」

 浜岡の言葉は、自動翻訳機によって、三組の人質達に伝えられた。画面のスイッチを一旦切って、

「さあて、四匹の鼠を退治する支度をするぞ、ふふふ」

 にやにや笑いながら美千代に言った。


「あら、二匹は助けるのでは?」

「勿論助けるとも。苦しまない様に一秒で殺してやるのさ。これも一種のボランティアだよ。タダで天国に送ってあげるのだからね。ふふふふ」

「うふふふふ、表彰ものね」

「全くだ、あっははははは!」

 二つの悪の花はまだしぶとく咲き誇っていた。


「翔さん、譲治さんをどう思います?」

「どう、と言うと?」

「彼は本来強い人だが、妹さんの事になると言葉はあれですが、メロメロになる。彼はひょっとすると裏切るかも知れない」

「ま、まさか、幾らなんでもそれは無いと思うが……」

「もし来るのが遅いようだったら、俺は裏切ったと見なします。なんと言うのかな、動物的な勘です。この期に及んで二人きりで話なんかある筈が無い。

 あるとすれば裏切りの話です。もし仮にリカさんだけが直ぐ戻って来たとすれば、それはもう間違いありません。その場合は譲治さんだけが裏切ったと考えるべきでしょう」


「ああっ!」

 翔は思わず叫んでしまった。夢限の言う通り、リカだけが直ぐ戻って来た。すかさず夢限が聞いた。

「リカさん、お兄さんは?」

「ええ、それが、急に腹痛とかで、大の方なんだって。なるべく早く来るって言ってましたけど」

「そうですか。ところであのキーは持っていますか? ここに来る時に使った、1番と2番の鍵ですが」

「はい、持っていますけど……」

「それを貰えませんか?」

「ええ、どうぞ」

「それじゃあ俺は先に行きます。このキーでガードロボットの目を潰します。これだったら小指の三倍以上のスピードで潰せる。

 ここから見たドアの感じからすると廊下は狭そうだから、ロボット達とは一対一の対戦になります。それだったらたとえ相手が、五体、六体いたとしても十分勝機があります」

「ああ、それは、いいアイデアですね。何処で考えましたか?」

「ここに来るまでに少しずつね」

「あのう、お兄ちゃんが来るまで待っていて下さい。ここで最終の作戦を練るんじゃなかったんですか?」


 夢限は少し躊躇った後で、

「……言い難いんだけど、譲治さんは俺達を裏切ったと思います。そういう話は出ませんでしたか?」

「ええっ! それは……」

 裏切りの誘いを一度だけだが受けた事を思い出した。


 兄を信じたかったが、急に腹痛というのも考えてみればおかしな話である。それに今は兄妹の情に負けていられる場合ではない。自分達の命ばかりではなく、より多くの人の命に関わる事の様に思えて仕方がないのだ。

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