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恐怖の賭け(28)

「そうです。あの男は人質を躊躇いもなく取る。俺もそれで酷い目にあったのですが、ここが彼の最後の砦だとすれば、人質を取って、立てこもるのでしょう。

 万に一つも人質に逃げられない様にする為には、こういう構造が有利です。車があれば車を奪って逃げる手がありますが、リカさん、あ、いや、リカの言う様に動力が全く無いとすれば走って逃げるしかない。

 しかし緩いとはいえ上り坂です。五分や十分ではとても逃げ切れない。しかも先の方は真っ暗です。ますます逃げられません。

 その上、道はほぼ真っ直ぐですから暗視スコープを使えば、ライフルで射殺する事も容易い。また誰かが攻めて来ても、同様に簡単に射殺出来ます」

「凄いですね、良くそこまで考える事が出来る。夢限さんは何かその方面の勉強をされたのですか?」

 翔は感心して言った。


「変な話なんですが、浜岡に鍛えられた様なものです。あの男に人質を取られて、操られているうちに、色々な事を考えました。そのうちちょっとだけあの男の考え方が分かって来たんです。まあ、ちょっとだけですが」

「しかしそれだったらどうして私達は無事なんですか!」

 譲治はややきつい調子で言った。


「アクシデントがあったと思います。あの男にさえ予測出来なかった何かがあったのではないでしょうか。もう一つ考えられるのは油断です」

「油断? あの浜岡が油断ですか?」

 またも翔は意外に感じた。


「浜岡は私達が死んだと思っている。もしそうだとすれば辻褄が合います」

「しかし、外部から進入して来る者がいないと思う筈はない。それをどう説明するんです!」

 譲治は相変わらずきつい調子だった。


「外から進入する事は当分出来ません」

「ははは、自信満々ですね。どうしてそう言えるんですか!」

「核爆発の為です。ここの入り口は唯一つ。そこは核物質によって高濃度に汚染されている。めったな事では近寄れません。そうでしょう?」

 夢限は最後は翔を気遣って声を潜めた。


「うっ! そ、そうか。……分かった」

 譲治は自分の厳しい質問が翔を傷つける事になって不味い事を理解した。その時リカが妙な事を言い始めた。

「あのう、どうして私はここにいるんでしょう? 良く思い出せないんですけど……」

 三人の男達の顔色が変わった。


 本来のリカに戻ったらしいのだが、どう説明すれば良いのか判断が付かなかった。

「何時までも隠して置く訳には行かないのじゃありませんか?」

 辛そうにしながらも翔が提案した。その提案を譲治は受け入れざるを得なかった。嘘を付いたり誤魔化したりすれば、リカはますます不安になって行くのに違いなかった。それではかえって病状が重くなる気がした。


「ううう、リカ! か、可哀想に! お、お前は、本当は……、時々、人格が入れ替わるんだ」

「人格が入れ替わる? 何のこと?」

 リカには兄が何を言っているのか理解出来なかった。


「リカさんは俺の頬っぺたにキスをした事を覚えていますか?」

「わ、私はそんな事はしていません! そ、そんな事……」

「やっぱり覚えていないんですね。リカさんは時々もう一人のリカさんになるんです。彼女は俺にリカって、呼び捨てにしろと言いました……」

「二、二重人格なの私!」

 夢限に言われてやっとリカは自分の心の病を理解した。


「し、信じられない。ど、どうすればいいの? 私、どうすればいいの? 嫌だ、嫌だ! うううっ!」

 リカはその場にしゃがみ込んで泣いた。女性格闘家としてあれほど気丈だったのだが、おいそれとは治せそうもない心の病の前に、その気丈さはもろくも崩れた。


 三人の男達はしばしその場に立ち尽くしていたが、

「夢限さん! 私を見捨てないで下さい!」

 リカはそう言って、夢限の胸に飛び込んだ。翔も夢限もそれでリカが救われるのなら良いと思った。しかし譲治の胸の中には不愉快極まりない感情が生まれていた。


『妹がこんな風になったのは元はと言えば、この男のせいだ。この男さえいなければ、リカはこうはならなかった!』

 激しい憎しみの感情が譲治の心の中に沸き起っていた。


「翔さん、む、夢限さん、妹と二人きりで少し話があります。後で追い付きますから、先に行って貰えませんか」

 深刻な様子の譲治の申し出に二人は素直に従った。


「それじゃあ私達はこのまま左側を行きます。あなた方も取敢とりあえずは左側を来て下さい。浜岡がいると思われる部屋に入る前に、一度合流して最後の作戦を考えましょう」

 夢限はリカに対する気遣いもあって穏やかに言った。

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