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恐怖の賭け(26)

「わあ、御菓子の家の中に入った気分よ。本当にお菓子もあるし、ジュースもあるし、ソーセージなんかもある!」

 リカは嬉しくなってすっかりはしゃいでいた。

「おいおい、必要なものを持ったらさっさと出るぞ!」

 譲治は妹をたしなめたが、彼の声も弾んでいる。それでもちゃんと分をわきまえて、たった一分で出て来た。二人ともかなりの量の食料品を調達して通路に出て来た。それからドアを今度はきっちり閉めた。


「やっぱり冷蔵庫みたいです。寒くて余り長くはいられないですね。とにかくここで食べて行きましょう」

 譲治は上機嫌だった。リカもたらふく食べたし、夢限も相当詰め込んだ。ペットボトルに入ったミネラルウォーターで喉を潤した。しかし翔だけは余り食べなかった。


「翔さん、あれはあれとして、今はしっかり食べないと。まだまだ一働きも二働きもして貰うのですからね」

 夢限は慰めつつそう言った。

「申し訳ない。じゃあ、もう少しだけ……」

 翔はミネラルウォーターを一口飲んで終った。三人の心は痛んだ。死の灰を大量に浴びるというアクシデントもあって、病魔が彼の肉体と精神をハイスピードでむしばみつつある事を皆知っていた。


 ミネラルウォーターをペットボトルごと幾つか重ね、懐中電灯を下向きに置いて上から光を当てると、周囲が僅かながら明るくなる。

 ぼんやりとでもお互いの顔が見えるので、四人でそれを取り囲んで座り、今後の方針や気の付いた事を話し合う事にした。


 まだ一キロほど離れているが、とうとう行き先にドアらしきものが見える所まで来た。今後は歩く毎に少しずつ明るくなる。こっちから良く見えるということは、逆に向こうからも良く見えるということである。


「これからはますます危険になります。ただ、道幅がもう少し行った所で広くなるし、壁に太いコンクリート製の柱があって、少しは隠れられます。

 戦略的には柱に隠れながら少しずつ前進するべきでしょう。時間が掛ってもその方が安全です。こちらには武器も何もありませんから安全第一で行くしかないと思います」

 最初に夢限が提案した。


「ああ、あの、……少し目が治って来たみたいだ。まだ大分暗いけど、一人で歩けるから」

「ええっ! 見える様になったんですか?」

 譲治が声を掛けた。


「さっきのミネラルウォーターが効いたみたいです。悪いが少し食わせて貰えないか。本当の事を言うとさっきは具合が悪くて食欲が無かったんだ」

「ああ、どうぞ。どうしてこんな所に冷蔵庫、しかも食料のたっぷり詰まったものがあるのかイマイチ分からないのですがねえ」

 夢限はハムや乾パン、ポタージュの缶詰等を翔に渡しながら言った。


「どうしてなのかしら? さっぱり分からないわ」

「お前でも分からないのか?」

 少し前までの妹が、凄い勘を働かせたのに、今は元に戻ったみたいで、譲治は少しがっかりした。


「お兄ちゃん、『お前でも』は無いでしょう?」

「はははは、悪かった。ただこの通路のスロープの意味が、簡単に分かるなんて凄い勘だったからね」

「ええっ! 何のこと? 私、そんなことは言ってないわよ。このスロープに入る少し前から頭がボーっとしていて、ただ皆にくっついて歩いて来ただけよ」

「ええっ!」

 男達は一様に驚いた。


『二重人格?』

 三人の男達の頭の中にその言葉が浮かんだ。

「そ、そうか。それなら別に良いんだ……」

 譲治の一言でその件は終わりになった。それ以上突付つっつくと薮蛇やぶへびになる恐れがある。


「……詳しい事は分かりませんが、こんな所に食糧倉庫があるなんて不自然ですよね」

「確かにそうですよね」

 夢限の問い掛けに、久し振りに翔が応えた。


「歩きながら色々考えたんですが、ここの造りは雑です。地下二千メートルにある、ムーンシティはそりゃ凄かった。ここよりも遥かに広く美しかったです。それで俺は、浜岡は切羽詰った状況にあると思っているんです。

 ここまで歩いて来ても何も変った事がありませんし、我々以外一人も通りません。また本格的な分岐点も全く無かった。一本道です。多分彼は我々の接近に気が付いていない。

 さっきの冷蔵庫、いや冷蔵室というべきでしょうが、そこを開けた時に、ひょっとして警報でも鳴るかも知れないと思ったのですが、結局何もありませんでした。

 彼が向こうにある部屋の中で、多分幾つか部屋があると思うのですが、そこで何をしているのか分かりませんが、何かに打ち込んでいてそれどころではないのだと思います。

 倒すなら今がチャンスだと思います。ただ油断は禁物です。どんなに追い詰められても浜岡は浜岡ですからね。奥の手が更にあるかも知れませんから」

「はあーーーっ! 素晴しい読みだわ! さすが夢限さんだ、うふふふっ!」

 リカの表情は一変した。


『もう一つの人格に変ったのでは?』

 三人の男達は心配になったが、努めて平静さを装う事にした。

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