恐怖の賭け(25)
無限は自分一人だけなら、
『真っ暗闇でも懐中電灯を長持ちさせる為に、特別な事がない限り消したままで歩いて行くのだがな……』
などと考えていたのだが、翔がリカを襲った為にどうしても明かりは点けない訳には行かなかった。真っ暗闇ではまた何かあるかも知れないと不安で仕方がないからである。勿論点けたのは一つだけで、もう一つはそれこそ予備に消したまま歩き続けていた。
もう少し涼しかったり、湿度が高ければ良いのだが、快適な温度と低い湿度に保ってあることが、彼らにとってはかえって苦痛だった。
それでも砂漠の様に直射日光が当ったり、砂嵐が無いだけでも少しはましである。そんな彼等にほんの僅かながら希望が見えて来た。
ずっと向こうの方がぼんやりと明るいのだ。しかしまるでそうなる事を待っていたかのように、点けていた懐中電灯一個がとうとう電池切れになってしまった。
「あと一つか。明るい場所に行き着くまでに、まだかなり距離がある。さすがに消してしまうと足元がおぼつか無い。電池切れの一つは隅っこに捨てて行く事にして、申し訳ないが譲治さん、その懐中電灯を使わせて貰いたいんだが」
「はい、どうぞ。途中で切れないといいんですが」
譲治は腰から提げていた懐中電灯を、一言言って夢限に手渡した。
「ふふっ、消えた時は消えた時で暗闇の中を歩いて行くしかないですね」
そこから再び沈黙の行進が始まった。話したいのは山々だが喉の渇きがそれを許してくれそうもない。
『何故エレベーターが動かなかったのか。……しかし動かなかったから俺達は助かったんだよな。のろのろ動くエレベーターだから乗っていれば完全にアウトだった。あの時間になったらもうエレベーターは動かない様になっていたんだろうか?』
余り喋れる状態でないので、夢限は様々な事を考えながら歩いていた。
『……もしそうだとすると、最初から浜岡は原爆を使う気だったんだ。それならグリーンスポットは何の為にあったんだ? 浜岡先生等と言っていた。恐らく、何らかのアクシデントでこっちに避難出来なかった場合の事を考えてのことだろう。
しかしその後は? 待てよ、本来ならガードロボット達がいるよな。あいつ等を使ってここに入れる様にガラクタを積み重ねれば? かなり大変だが不可能ではないかも知れない。
……いやそうじゃない! 間に合わなかったんだ! そうだ、ここの造りはあの素晴しい地下都市のムーンシティに比べると、まるで月とすっぽんだ。遥かに貧弱だ。
つまりこっちは明らかに急ごしらえだ。逆に考えれば、ここが最後の砦なのではないのか? そうか、きっとそうに違いない!』
「夢限さん」
『ふうむ、しかし、今のままでは、体力が持たないな……』
「夢限さん!」
「えっ、な、何ですか?」
夢限は先程から譲治が叫んでいる事にやっと今気付いた。小声であった為に夢中で考え事をしていて気が付かなかったのである。かなり頑張って譲治は大きな声で叫びやっと気が付く事となった。
「ちょっと通り過ぎましたが、脇道があるんですが」
「脇道?」
「はい。暗くて先がどうなっているのか良く分からないんだけど、確かに左側にありました。あの、こっちです」
譲治はリカと一緒に五メートル程戻った。
「じゃあユーターンするから」
夢限は翔に言うと、彼を反対側に向かせてから、腕組みをしてゆっくり歩いた。俄かに盲目になった翔と連れ立って歩く方法を色々試みたが、腕組みが一番具合が良さそうだったので、今はそうしている。
「はい」
翔は極めて寡黙になっていた。それが彼の反省の証なのだろう。夢限はその場所に戻ると早速懐中電灯で照らしてみた。
「あれ? ドアがありますね。鍵穴が付いていないですが? 触っても大丈夫かな?」
「あのう、私に開けさせて下さい。万一のことも考えられますから、皆さん下がって」
翔は罪滅ぼしの為に危険かも知れないことを積極的に買って出た。夢限はその方が翔も気が楽だろうと考えて、罪滅ぼしをして貰う事にした。
「うーん、そ、それじゃあ、お願いしましょう。一歩前進してからゆっくり右手を伸ばしてみて下さい。ノブに触れる筈です」
「はい。こうでしょうか?」
「そう、もう五センチほど手を伸ばせば掴めると思います」
「ガチャッ! キーーーッ!」
翔が手探りで掴んだノブを回して押すと、金属製のドアは簡単に開いた。特に危険な事はなさそうである。中は倉庫の様だった。
「鍵らしいものは全く付いてないですね。重要な物は入ってないんでしょうか? ああ、でも何だか良い匂いがしますよ」
夢限は期待を込めて言った。どうも食品の倉庫らしいのだ。
「中は相当涼しいです。冷蔵庫みたいな感じですね。それとかなり広いですよ。声が響きますから」
少し中に入っていた翔も期待感を込めて言った。
「何か仕掛けがあって閉じ込められると不味いですから、そうですね、翔さんは外へ出て来て下さい。譲治さんとリカさんで中を探して、食料とか水とがかあったら持って来てくれませんか。
まあ私達の物ではありませんがこのままでは命に関わるので、勝手ながら頂くことにしましょう。十中八九浜岡の物でしょうがね」
夢限は翔を連れ出した。それと入れ替わりに景山兄妹が懐中電灯を夢限から受け取って中に入って行った。念の為にドアはほんの少しだけ開けて、二人は中を物色した。