告白(5)
「はーっ、いいなあ、私の彼と比べたら月とすっぽんね。どうやったらこんな素敵な彼を見つけられるんでしょうね……。アルコール抜きで一万ピースのコース料理二人前。確かに承りました」
木立良子は足取りも重く厨房へ向かった。
「ふふふ、してやったわ! 彼女ねえ高校時代からの親友、いえ悪友かな? 高校を卒業した後、私は理科系の大学に入った。彼女は文系の大学。といっても同じ大学なのよ。ただキャンパスは広くてねえ、めったに会う事は無かったな」
「俺は学校には完全に無縁だったから、何かワクワクしますね。これからも学校の話をいっぱい教えて下さい」
金雄は希望に燃える様な目をして聞いていた。
「そうねえ知らない人には良く見えるかもしれないわね。でもそんなに期待するほど良いものじゃないわよ。私も彼女も中学時代は結構な不良だったし。
高校に入って初めて出会ったんだけど、もと不良同士直ぐ仲良くなったわ。ただ私も彼女も大学に入りたいっていう目的があったから、不良からきっぱりと足を洗ったのよ。
それと同時に私は格闘技の道に入った。ヘヘへ、ちょっと格好良い男の先輩に憧れてね。でも妙な事になったの。私の方が強くなっちゃったのよ。
彼には悪いんだけど、私の憧れはナンシー山口に変って行ったわ。圧倒的に強くて、美人で格好良いのよ。何度戦っても彼女には手も足も出なかった。
段々諦めムードになって来た所で、前にも話した変態男にプロポーズされたのよ。それから間も無く格闘技はぴったり止めて主婦になったのに、旦那は男の愛人とラブラブでね。
結婚する前とした後では良くこれ程変れるものだと思うほどガラリと態度が違っていたわ。男を見る目が無かったのよね。ああ、段々つまら無い話になったわね」
美穂は金雄が退屈しているのではないかと思って苦い思い出話は止める事にした。
「いや、面白かったですよ。俺の学校に対する知識は本で読んだり、テレビドラマで見たりするぐらいですから、現実と少し違うような気がします。これからも色々と教えて下さい」
「ふふふ、まるで私が先生みたいね。宜しい手取り足取り教えて進ぜよう」
そこへ木立良子が食器類を持って来た。並べながら愚痴を零した。
「私、彼とは別れるわ。美穂を見て決心がついた。万事にルーズな男なのよ。でも私の選んだ男だと思うと未練があってね。
ただ、もう少しましな男から誘いがあって、どうしようか迷ったんだけど、駄目元で新しい彼とやってみるわ。でも、こちらの人の方が遥かに上ね。はあーっ、わたしゃ不幸だよ」
「何、辛気臭いこと言ってるのよ。ついこの間まで私の方がまだましだって言ってた筈でしょう? 人の運なんてどうなるか分からないものよ。気を強く持ちなさいよ!」
「もうめちゃくちゃ強気ね。男の力は偉大だわね。じゃあね、直ぐ料理が来るから」
良子の言う通り、彼女が去って直ぐにコース料理がウェイターによって次々に運ばれて来た。真昼間から二人は豪勢な料理に舌鼓を打った。食べながら今日のこの後の事について話し合った。
「ところで金雄さん、仕事はフリーターだったわよね」
「正確に言うとちょっと違います。俺は大道ロボット屋で稼いでいるんです。美穂さんにとっては商売敵みたいなものです」
「ああ、そうなんだ。……待って、私、貴方の噂聞いた事がある。恐ろしく強い若造が居て、一瞬で勝負が決まってしまうって。あれは貴方だったのね」
「多分そうです。一度勝つと二度と同じ所では勝負させて貰えないので、最近では少し苦労しています。この近辺では粗方やっちゃいましたから」
「そうねえ、困ったわね。私の助手でもする?」
「ははは、それじゃあお金になりませんよ。トレーニングを兼ねてちょっと遠出します。夕方までには必ず帰って来ますから」
「そ、そうね。ちょっと心配だけど貴方を信じるわ」
そう言うと美穂は金雄に握手を求めた。金雄は勿論握手に応じたが、それは手を握り合う愛撫に変った。その時から二人の男と女の関係が始まった。
普段はトラックに寝泊りした。最新型だけあって冷暖房完備は勿論だが、微妙な温度の調節も、更には湿度の微調整さえも出来る優れものだったので、狭い事を除けば快適だった。朝起きると早朝レストランで二人一緒に朝食を取り、美穂と金雄は別々に仕事をする。
夕食は一緒に何処かのレストランで済ませる。時々ホテルに一泊して愛を確かめ合った。美穂にとっては幸福な三ヶ月が過ぎた。
しかし金雄にとってはどんどん辛くなる三ヶ月だった。たとえ破局が来てもどうしても言わずに居られない事が、彼にはあったのだ。