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恐怖の賭け(22)

「私は夢限さんに言ったのであって、貴方に言ったのではないわ!」

「い、いやそれは失礼した。申し訳ない」

「リカ! そういう言い方は失礼だぞ!」

 譲治はたしなめた。普段そういう言い方をする妹ではない。少し気まずい雰囲気になったが、やはりリカはどこかおかしいようである。


「ところでここの奥の方にトイレがあった筈なんだが……」

 翔は失望気味に言った。小用なら何処でも足せるが飲み水となるとそうは行かない。

「確かにそれらしいものが奥の方にあったと思うけど、瓦礫にすっかり覆われていてこれじゃあとても無理だな。それに時間を掛けて瓦礫を片付けたとしても水が出るかどうか。多分出ないんじゃないかな……」

 夢限もちょっとがっかりした様に言った。


「そうですね。本当ならシャワーでも浴びたいところですよね。汗とほこりで、臭いがかなり酷くなって来ています。僕も皆さんも」

 翔は本当は『飲み水』と言いたかったのだけれど、やはり言い難かった。


 そんな時、

「あーっ! 喉が渇いたわ。飲み水が欲しい。それにお腹もすいたし、疲れちゃったし……」

 皆が言わない様にしていた事を、リカはあっさりと言ってのけた。


「リカ!」

 譲治は顔をしかめてきつく注意した。

「リカさんの言うのももっともだけど、多分浜岡達が逃げた横道の向こうにならあると思うんだけどね……」

 夢限は少しでも希望を持たせようとした。


「じゃあ、そこに早く行きましょうよ」

 リカは直ぐそこの隣近所にでも行く様に気軽に言った。譲治は最早注意しない。妹の状態が少し変になっていることを漸く彼も認めたのだ。


「あっ! 上の方に横穴が見えるぞ!」

 何気なく上の状態の確認の為に、懐中電灯で照らして見ていた夢限が叫んだ。

「ああっ! 本当ですね! ニ十メートル位の高さはありそうですけど。でも何とか落ちて来たせり出しを登れば辿り着けそうですね。せり出しの山の方が高い位ですから」

 翔も懐中電灯を使って確認した。


「しかしここを登るのは容易で無いですね。階段状に重ね餅になっていますが、垂直に近いですから。リカは大丈夫かな……」

 譲治は暗に妹のリカの精神状態を考えて言った。落ちて来て積み重なったせり出しは、巨大な四角い切り餅を沢山重ねた様な物であって、本物の階段ではないので崩れる危険性が十分にある。


「危険でも登るしかないですよね。良いでしょう、俺がリカさんを負ぶって行きましょう」

 譲治のほのめかした言葉を受けて夢限は言った。


「そ、そうしてくれますか。あ、有難う。恩に着ます。本当に有難う。ちょっときつい事を言ってしまった事もあったけど、その、どうも済みませんでした」

 譲治は核爆弾に関して夢限をなじる様な言い方をしたことを詫びた。


「えへへへ、夢限さん、私を負ぶって行ってくれるの? わあ嬉しい!」

 リカは子供の様に喜んだ。

「リカさんに懐中電灯を一つ持って照らして貰います。それから下からも照らしてくれませんか?」


 夢限は早速登る事にしたが、念の為に一言断った。

「あの、俺からで本当に良いんですか?」

「ああ、勿論構わないよ」

「是非お願いします」

 翔も譲治にも異論は無かった。


「じゃあ、リカさん。負ぶさって下さい。それと懐中電灯で少し上の方を照らして下さい」

「うん、分かったわ」

 懐中電灯を使っても相当に薄暗い。ここでも夢限の身体能力の高さに、翔と譲治は驚かされた。


「おおっ! 凄いっ! ぼんやりしか見えないのに、なんと言うスピードだ!」

 譲治は感嘆した。翔は夢限がロックパイルを登った時の事を思い出していた。

『そうか、こんな時の為にも岩山を登る練習をする事は、意義のあることだったのだな。ロッククライミングなぞ流星拳に何の関係も無いと思って、必ずしも熱心にやらなかったのは、私の思い違いであった』

 少しばかり後悔した。


 軽いとは言っても女性一人を負ぶって登った夢限は、しかし既に上に着いて横穴の入り口のところで手を振っている。


 そのずっと上の方、屋内格闘場の貴賓席のあった辺りは本来なら四角い穴が見える筈であるが、瓦礫の様なもので覆われていて、どうなっているのか良く分からなかった。

 直感的に相当の厚みのある瓦礫で埋まっていそうで、常識的に考えれば、それらが取り除かれて助けが来るまでに最低でも一週間位は掛りそうだった。


『穴は原爆の炸裂さくれつで超高温になって周囲の物を溶かして、それで塞がれている様な感じだな。しかも何処から飛んで来たのか、相当の量の瓦礫に覆われている。

 救助隊が結成されたとしても、ここに私達が生き残っている事を知らないかもしれない。そうなると救助は随分遅くなるだろう。ただ待っていては死ぬ事になるな……』

 そう思ってはいたが、翔は必ずしも登る事に自信が無かった。


『何かあった場合のことを考えて、自分が最後にしよう』

 そこまで考えてから次の言葉を発した。

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