恐怖の賭け(21)
「残念ながら浜岡は一言も言った事が無いし、彼の関係者からも一度も聞いた事が無い。あくまでも俺の推測に過ぎない。推測でものを言ってもしょうがないんじゃないのか?」
夢限はなるべく穏やかに反論した。状況が状況なだけに譲治が精神的にピリピリしているらしいと知っていたからである。
「まあまあ、お二人さん、そんな事で言い争っても仕方がない。それよりこれからどうするかですよ」
大分翔も落ち着いて来ていて、なだめる様な調子で言った。
「どうやったら出られるのかしら? 閉じ込められてしまったみたいだけど……」
リカは悲観的に言った。その時シャッターが、
「ギーーーィ!」
と、閉まった時よりは重そうに動き出した。自動的に開く様に出来ているらしい。それらを動かす動力などは、更に地下にあって爆発の影響は殆ど受けなかった様である。
「懐中電灯を点けた方が良いな。何かが崩れて来るといけない」
暗黙の了解で懐中電灯は使わない様にしていた。今後助けられるまでどれだけの時間が掛るか知れないからだ。電池の消耗を抑えて、出来るだけ長く持たせなければならない。
しかし背に腹は変えられない。夢限は止む無く懐中電灯を点けた。もう一つは翔が点けた。分厚いシャッターは廊下の前後にある。両方を照らす為にはどうしても懐中電灯を二つ使う必要があった。
「ガラ、ガラ、ガラッ!」
案の定、シャッターの移動によって、両方の壁から石がいくつか崩れ落ちて来た。しかし大したことは無かった。大きな石は下の方にあって動かなかった。崩れ落ちて来たのは小さなものだけだったからである。
「おっと危ない!」
唯一ボーリングのボールの様な感じの丸い石が、ころころ転がって翔の足にぶつかりそうになったが、それはとっさに譲治が足で抑えて事無きを得た。
「パチン、パチン」
安全が確認されると節約の為、直ぐ懐中電灯のスイッチを切って、今後の方針を話し合う事にした。暗闇は気を重くさせるのだが、これは我慢するしかなかった。
「先ず、どっちへ行く? エレベーターの方へ行くか? それとも……」
翔が落ち着いた様子で言った。それに対して夢限も冷静に答えた。
「さっき懐中電灯で照らした時に見たんだけど、エレベーターの方はもう無理だな。エレベーター付近の構造がどうなっているのか良く分からないけど、すっかり瓦礫の山になっている。
どうしても駄目なら仕方が無いけど、一応部屋の方を先に調べてみようよ。ちょっと気になるのは浜岡達が貴賓席ごと上にあがって行った事だ。彼等はきっと安全な所にいる。多分、いいや、絶対に横道があると思うんだが……」
「異議は無いです。翔さんはどうですか?」
「ああ、俺も同じ意見だ。リカさんは……」
「………………」
リカは精神的に相当参っているらしく何も言わなかった。
誰も言い出さなかったが、皆かなり喉が渇いているし空腹でもある。その事を言うと、精神的に崩れてしまいそうだったので、これもまた暗黙の了解で誰も水や食料については言わなかった。
「それじゃあ懐中電灯を一つだけ使って行きましょう」
そう言いながら夢限は歩き出した。その後をリカ、譲治、翔の順序でほぼ一列に歩いて行った。
瓦礫が散乱していて暗いので、横に並んでは殆ど歩けない。リカを二番目にしたのは様子が少しおかしいし、心配だったからである。
懐中電灯一個だけを頼りに歩くのはかなり危険でもあった。それでも電池の寿命のことを考えるとそうせざるを得ない。
夢限はそのことに配慮してゆっくり歩いた。瓦礫の山を登ったり降りたりしながら、何とか部屋の中に入れた。
「オオーーーッ! これはっ!」
部屋の中で四人は奇妙な壊れた階段の様なものを見た。ずっと高い位置にまで積み重なっている。
「何だろうね、これ? こんな所に階段は無かった筈だけど?」
夢限は首を捻った。
「これはきっと仕切りよ。せりだしとも言うのかしら。貴賓席が下に降りた時、せり出して来た床があったけど、あれは何重にもなっているんでしょう?
さっきの核兵器の爆風で多分上の何枚かが外れて落ちたのね。ところがその重みに耐えられずに次の床も抜けた。その床の分だけ重くなるから、その次の床も抜けたのよ。そうして次々に床が抜けてここまで落ちて来たんだわ、きっと」
リカの見事な推理だった。
「なるほど、理に適っていますね。いや、リカさんお見事!」
翔は感心した。それと同時に安心した。
『これなら大丈夫だろう』
三人の男達はほっとした。しかし本当は必ずしもそうではなかったのである。