恐怖の賭け(20)
しかし爆破二分前になると、今度はサイレンが鳴り響き、アナウンスは奇妙な事を言い出した。
「浜岡敦先生、東郷美千代先生、爆破二分前になりました。グリーンスポットにおいで下さい! グリーンスポットにおいで下さい!」
「何だ、浜岡先生と東郷先生だって? あいつらは逃げただろう?」
翔はまたも首を捻った。
「それにしてもグリーンスポットって何処なんでしょうね?」
譲治も軽く首を捻った。
「少なくともそこは安全なんじゃないのかな?」
夢限は微かな希望を見出していた。
「あれがそうじゃないの? ほら廊下の向こうの方!」
リカが指差したのは四十メートルほど先の貴賓席のあった部屋に近いところである。確かに廊下の床が緑色のライトに照らされている。
「どうします? ひょっとして何かの罠なんじゃ?」
譲治は気を回したが、
「ここにいても助かる保証は無い。万に一つでも助かる可能性のあるグリーンスポットへ行こう! ああ、念の為に懐中電灯も持った方が良い!」
「うん!」
「ああ!」
「そう致しましょう」
夢限の言葉に皆従った。
「爆破一分前です。浜岡敦先生、東郷美千代先生お急ぎ下さい。シャッターは三十秒前から作動します。シャッター作動まであと20秒、19、18、……」
全員が遺体の方をチラッと見たが、もう構っている余裕は無い。
「タ、タ、タ、タ、タ、……」
「14、13、12、11、……」
「リカ、頑張れ!」
遅れがちなリカを励ましながら譲治は走ったが、
「ああーーーっ!」
そのリカは転んでしまった。
「先に行け!」
夢限は大声で叫んで、戻ってリカを抱きかかえて走った。譲治も戻りかけたが夢限を信じた。
「3、2、1! 作動します!」
「キーーーィ! キーーーィ! キーーーィ! ……」
「ウリャーーーッ!」
動き始めたシャッターをすり抜けて辛うじて夢限は間に合った。シャッターと言っても廊下の前後に幅二十センチほどもある頑強そうな壁の様な物で、しかも何重にも重なって廊下の上と下の両方からせり出して来たのである。
それらは間も無くピッタリと合わさって、前にも後ろにも行くことは出来なくなった。廊下に俄かに出来た小さな密室になったのである。
「爆破まで後20秒、19、18、17、……」
その場所にも小さなスピーカーが付いていて、サイレンの音は余り聞こえなくなったが秒読みの声は良く聞こえていた。
きっと何か恐ろしい事が起こる。それが分かっていても四人の若者達はただ肩を寄せ合って時の過ぎるのをじっと待つしかなかった。
「8、7、6、……」
それが新年を迎えるカウントダウンならどんなに嬉しいだろう。しかし最も数えたくないカウントダウンはもう終わりに近い。
「3、2、1、ゼロ!」
最後のカウント『ゼロ』がはっきり聞こえた。一瞬、間があった。
『ひょっとすれば何も無いのではないのか? 考え過ぎだったのでは?』
そんな僅かな瞬間にさえ、しがみ付きたかった。そう思って希望を持ちたかった。しかし、
「ドオオオオオーーーーーーーーンッ!!!!」
直後に明かりが消え、恐ろしい音と振動と暗闇とが一緒にやって来た。
「バリ、バリ、バリ、バリ、バリ、バリ!!」
雷の様な音も聞こえる。
「ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド!!!」
何かが沢山崩れている音が迫って来る。グリーンスポットを守っている強固な壁にも、
「ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ドスンッ!! ドスンッ!!」
石や岩がぶつかって来ているらしい音が何十回も聞こえた。
「壊れるな。壊れるなよ!!」
全員がそう思った。そう思う声が思わず洩れてしまうほど激しい衝撃だった。生きた心地がしなかったが、間も無くシーンと静まり返った。真っ暗で何も見えなかった。
「終ったな。……み、皆大丈夫か?」
「ううううっ、だ、大丈夫です」
リカは泣きそうになりながら夢限の呼び掛けに応えた。
「な、何とか持ち堪えている……」
翔も辛うじて声を出した。
「……とにかく助かった事は助かった。今のは一体何だ? 地下で爆発があったとは思えない。しかし地上の爆発にしては、規模が大き過ぎる」
譲治は既に論理的に考えていた。
「多分核兵器。原子爆弾だと思う。前々から嫌な予感がしていた。全世界を敵に回しても、一歩も引かないあの自信。虎の子のロボット兵を奪われても尚その自信に揺るぎが無いから、ひょっとするとと思っていたんだけど、まさか本当にやるとは……」
夢限は独り言のように言った。
「核兵器を持っている事を知っていたんですか?」
譲治がやや責める様に言った。知っているのなら何故皆に知らせないのだ、そんな気持ちが込められている。