恐怖の賭け(18)
幸いなのは爆風でロボットの手足がバラバラになっていた事だった。
「ふむ、こいつ等の取れた腕はバット代わりに使えそうですよ」
翔も意外に落ち着いている。彼の意見通りに三人は、ロボットの腕をバットの様に振って使った。
「退避せよ! 退避せよ! 爆破二十五分前! 退避せよ! 退避せよ! 爆破二十五分前!」
女声アナウンスはいよいよ緊迫感のあるものになって来た。それから数分経ってやっと防弾ガラスの一角に人が通れるほどの穴が出来た。
貴賓席の一部の操作盤が残っている事が不可解ではあったがそんな事に構ってはいられない。夢限は直ぐ様3番のキーを緑の差込口に差し込んだ。
するとその上の方にある緑色のランプが点灯した。そこには動いているロボットがいなかったので、会場の全てのロボットが機能停止したのかどうか分からなかったが、信じるより他は無い。
「これでロボットは動かなくなった筈だ。後は会場と連絡を取れれば良いのですが、譲治さんどうすれば良いでしょうか?」
「ああ、私がやりましょう。先ず電源を入れて、桑山さんと交渉します。いや、報告すると言うべきでしょう。浜岡が逃げた事を皆に知らせると共に会場が爆破されるのだという事を知らせないと!」
譲治は喋りながら電源を入れるなどの操作をした。
「おや、浜岡さんはどうしましたか?」
事情を知らない桑山雄二はきょとんとしていた。少し眠そうでもある。
「ああ、あのう私は人質になっていたものの一人ですが、浜岡は逃げました」
「浜岡が逃げた?」
「はい、私の後ろにいる人達と協力して、彼の居場所を突き止めたんですが逃げられてしまいました。ただ大変な事があります」
「大変な事と言うと?」
「屋内格闘場に爆弾が仕掛けられて、後二十分ほどで爆発します。時限爆弾が爆発するんです」
「な、何ですって? そ、そりゃあ大変だ。しかし浜岡の手の者がいて、脱出させる事は難しいぞ」
雄二は極めて険しい表情で言った。
「それが大丈夫なんです。私達は彼の手足となって働いているガードロボットの機能を停止させることに成功しました。厄介なのはマシンガンを持った浜岡の手下達ですが、彼等は浜岡が怖くて命令を聞いているだけだと知らされました。
それで約束して欲しいんです。彼等が投降すれば処罰はしないと。そうすれば人質達もすんなり逃げられると思います。大勢の人の命が懸かっていますから、この際犯罪者の処罰には目を瞑って頂けませんか?」
「ああ、分かった。一分だけ待ってくれ。その旨を伝えてくる」
「了解しました」
長い一分だった。それまで五分毎だった警告が、残り二十五分から一分毎に変った。
「退避せよ! 退避せよ! 爆破二十二分前! 退避せよ! 退避せよ! 爆破二十二分前!」
幸か不幸かその警告の音声がテレビ電話を通して連合軍側に伝わり、譲治の要求はすんなり通った。
「全て了解した。しかし君達は大丈夫なのか?」
「はい、私達もこの後直ぐエレベーターで逃げる積りです」
「エレベーター?」
「はい、今地下にいるんです。申し訳ありませんが画面を屋内格闘場に切り替えます。宜しいでしょうか? 時間がありませんので、理由の説明は後にします!」
「すべて了解!」
桑山雄二の了解を取って直ぐ、譲治は画面を切り替えると、
「夢限さん、貴方の出番です。私は無名ですが貴方は有名です。貴方ならマシンガンを持った連中を説得できます。何とかお願いします!」
必死の思いで頼んだ。
「ああ、分かった。やってみよう。上手く行けば良いけどね……」
夢限は正直全く自信が無かったが、浜岡が逃げた事と、投降すれば処罰無しである事とを強調すれば何とかなると思った。その為には自分をエムと名乗った方が良いと思った。
「お早う御座います。私はエムです。浜岡は逃げました。浜岡の部下の皆さん。既にガードロボットは動きません。あなた方は投降すれば罪に問われません。連合軍がそう約束しました。
人質を解放して下さい。尚、一時間後に浜岡が仕掛けた爆弾が爆発します。出来るだけ早く遠くに逃げて下さい。報道関係の方々、今言った事を各国語に翻訳して下さい。お願いします。私達も直ぐに逃げます。以上です」
夢限は敢えて爆破の予定時刻を繰り下げて言った。そうしなければ大変なパニックになると思ったのだ。