恐怖の賭け(16)
「ウアアア、痛てえ、く、くそうガラスがある!」
「ははは、野蛮人が襲い掛かって来ること等、とうに計算済みですよ。良く磨いた防弾ガラスが張ってあります。あんた等はこの緑の差込口に、キーを入れに来たんでしょう?
でもガラスを割ってここに来るまでに、どんなに頑張っても一時間くらいは掛かる。相当に分厚いガラスですからね。間に合いませんよ。
それよりさっきも言いましたが、こっそり逃げれば良いんじゃないんですか? 紛れも無く正当防衛ですよ。後で裁判になったとしても百パーセント勝てます。
もし今の状態で皆を逃がそうとしても、ガードロボットとマシンガンを持っている私の部下達とが、それを阻止しますからね。
パニックになるし、下手をすると一万人以上の死者を出しますよ。あんたらだって助かるかどうか分からない。どっちを選びます? まあ好きな方を選んで下さい。じゃあ私共はここで失礼する」
「待て! 部下を見捨てていくのか!」
影山譲治が思い余って叫んだ。
「はははは、私にとって部下というのは見捨てる為にあるのです。最初から捨て駒なのですよ。嫌なら拒否すれば良い。その場で殺しますがね。あはははは、余り時間が無いですよ!」
「じゃあ坊や達、さようなら。縁があったらまたお会い致しましょう」
「退避準備、爆破五十五分前です! 退避準備、爆破五十五分前です!」
警告を発するアナウンスの中、浜岡と美千代は貴賓席に座ったまま上へ上へと昇って行った。昇って行ってしまうと、穴の空いた状態になっている天井に、結構分厚い床板がせり出して来て、上の方は完全に見えなくなった。
「何処へ行く積りなんだ? まさか会場に戻るとも思えないが」
譲治はここへ来て急に雄弁になった。夢限は地下都市での経験から凡その想像が付いた。
「多分横道があるんでしょう。今はそれより早くこのガラスを破る方法を考えましょう」
「しかし間に合わないのでは?」
翔は慎重な言い方をした。皆を助けずに逃げると思われては心外だからだ。
「確かに普通の方法では容易でないでしょう。何か方法が無いでしょうか?」
夢限はこの時ちょっぴり陽子を連れて来れば良かったなと後悔した。こんな時に彼女なら良いアイデアを直ぐ出せると思った。勿論あの状態では無理だったが。
「ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ!」
気が付いてみると相変わらず、四体のロボットはすっかり破壊された一体のロボットを、しつこく攻撃し続けている。壊れたロボットはバラバラになりつつあった。
「そうか、あれを使えないかな?」
譲治は何やら閃いた様である。
「このロボット達には超高性能の燃料電池が使われています。簡単に言えば水素ガスと酸素の塊みたいなものです。通常はそれをゆっくり反応させるのですが反応させずにどんどん放出させるのです。
この部屋全体は広いですが、ここは防弾ガラスで仕切られていますから、意外に狭いです。しかも密閉度も高そうです。ここにガスを充満させれば大きな爆発が起こります。防弾ガラスといえども持ち堪えられないでしょう」
「燃料電池の事なんかが良く分かりますね」
竜太が感心して言った。
「その、余り出来は良くなかったのですが大学でこの方面の勉強をしていたので……」
譲治ははにかみながら言った。
「それならとにかくこいつ等を倒す必要がありそうだな」
翔は意気込んだ。
「そうです。五体全部なら爆発力も相当ありそうですから。何より時間がありません。短時間でやるとなるとそれしかないと思います」
「分かりました。それだったらこうすれば上手く倒せると思います」
夢限は自分の経験から考え付いた事を話すことにした。
「一対一では容易に倒せません。ところが相手が複数だと、急に能力が落ちます。そこで対戦する相手を頻繁に変えればいいのです。
もし一人が捕まったら二人位が応援に行く。そんな風にしてロボットに自分は四人と戦っているのだと思わせるのです。
相手が全部で何人なのか、自分達が四人だから一対一になるのだ、といった認識をここのロボット達はしないようです。時間がありません。疲れているでしょうが直ぐ行きます。良いでしょうか?」
「おおっ、俺はいつでもいいぞ!」
竜太は溌剌として応えた。その声を合図に一斉に四体のロボット達に飛び掛っていった。
「ぐっ! ううう……」
威勢は良かったのだが真っ先に倒れ伏したのは竜太だった。直ぐに夢限がやって来て止めを刺そうとするロボットを制したが、竜太は起き上がれなくなった。
介抱してやりたいのは山々なのだが、それを簡単に許すほど甘い相手ではない。三人で竜太を庇いながらの戦いとなった。
「変えて!」
時折、夢限が声を掛けて対戦する相手を変えていく。