恐怖の賭け(15)
「触らない様にした方が良いみたいですね」
竜太も声を潜めて言う。普通に話しても差し障りは無さそうなのだが、目の前にロボットを見ると、その強さを知っているだけに、つい声を潜めてしまうのである。
「それじゃあ私から行きます。いいですか?」
翔の言葉に二人とも頷いた。
「3、2、1、それっ!」
翔は難なく通り抜けた。ロボット達は何の反応もしない。相変わらず同じ所を行ったり来たりしている。
「それじゃあ今度は私が……、あのう良いですか?」
譲治は良太に確認した。
「ああ、勿論」
「せーのっ!」
譲治はちょっと危なかったが、何とかロボットに触れずに通り抜けた。
「じゃあ真打登場ということで、あっしも行きましょう。それっ! ああっ!」
竜太は疲れ切っていたのだ。足がもつれ、転んでしまった。それでも殆どロボットには触れなかったのだが、一体のロボットの動きがちょっと変わった。
連鎖反応で他のロボットの動きもちょっとずつ変って、次第にまともになって行った。三人は走って部屋の入り口を目指した。やや間があってから四体のロボットは三人を追い駆け始めたのである。
必死に二体のロボット達と夢限が戦っている時、浜岡は桑山と何度目かのごく短い交渉をした。
「私に考える時間をくれないか?」
「おや、浜岡博士らしくもない。お疲れですか?」
「まあそんなところだな」
「あれ、なんだか騒々しいですね?」
「ああ、鼠が迷い込んで来てね、今退治しているところだ」
「鼠は何匹もいるんでしょう?」
「ふふふ、それよりも始末した連中を引き渡すから車を回してくれないか?」
浜岡は桑山の問いには答えずに自分の要求を言った。
「始末した?」
「ああ、警告を無視して、玄関から出ようとした無謀な若者達が十数人ね。ただしきっちり午前四時だ。誤差は一分以内。一秒でも余分にずれたら何人かの人質が死ぬことになる」
「うう、……分かった。仰せのとおりに致しましょう」
桑山は悔しそうに唇を噛んだが、手も足も出ない。人質の中の三組の著名人はいずれも過激なバックボーンを持っている。
彼等を指導者と仰ぐ連中の行動は時に小さな国の一つや二つをひっくり返しかねないし、それが世界全体を不安定な状態に持って行く切っ掛けになりかねないほどの影響力がある。彼等を迂闊に死なす訳には行かないのである。
「今回の交渉はこれで終わりだ。後は午前四時以降だ。それじゃあ失礼するよ」
浜岡は一方的にテレビ電話のスイッチを切った。電源も切って、完全に繋がらない様にした。
「バッターーーンッ!」
大きな音がして倒れたのは一体のロボット。かなりのダメージを受けながらも夢限は、何とかやっと一体目のロボットを倒した。
しかしもう一体のロボットに捕まってしまった。後ろから強烈な力の右の二の腕で首を絞められた。徐々に意識が遠のいていく。
「グウッ! グウウッ!」
夢限は必死に足で後ろにいるロボットの顔面を蹴り続ける。気合を入れているのだが、首が絞まっていて、妙な声しか出ないのだ。
人間なら顔が痛くて手を離すところだ。しかしそこはロボット、ダメージは受けても痛みは無い。平然と夢限の首を太い右腕で絞め続けていた。
「ウオリャーッ!」
「この野郎!」
そこへ三人が助けに入って来た。忽ちロボットの動きは緩慢になり、夢限を締め付けていた腕の力は弱まった。
「ハーーーッ! 助かった。ど、どうも、有り難う」
そこへ四体のロボットが雪崩れ込んで来た。しかし様子がおかしい。夢限達は左端にいたのだが、彼等に反応せず、真っ直ぐ浜岡の方へ向かった。どうやら勘違いしているようである。
「止まれ。私は浜岡だ。お前達の相手はそっちだ!」
浜岡は大声を出して命令した。浜岡の指差した方へ向かったが今度はたまたま一番近くにいた味方のロボットに対して攻撃を始めた。
「ええい、役立たずめ! 滅んでしまえ!」
浜岡は怒鳴りながら操作盤の上の赤いボタンを押した。
「ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!」
部屋中に警告音が鳴り響き、赤色のランプが点滅して危険を知らせた。女声アナウンスが入る。
「退避準備、爆破六十分前です! 退避準備、爆破六十分前です!」
その声を聞きながらニヤニヤ笑って浜岡は、
「諸君、いやあ良くここまで来れましたねえ。まあ、ということは、やはりキングは裏切りましたか。ははは、どいつもこいつも人間という奴は全く信用出来ませんね。
さあて、折角ここまで来たご褒美に良い事をお知らせしてあげましょう。今アナウンスがあった様に、ここは後六十分で吹っ飛ぶ。ふふふふ、逃げるのなら今の内ですよ」
と警告した。
「喧しい! お前のお陰で金太郎さんは、金太郎さんは死んだんだ! こん畜生!」
竜太は激しく怒鳴りながら浜岡めがけて突進した。
「バーーーン!」
しかし見えない壁に弾き飛ばされてしまったのである。