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恐怖の賭け(11)

 ここに来て連合軍側にかなり不利な要因が加わった。人質の中に世界有数の資産家の妻であり種々の評論などで著名なミランダ婦人や、小国家ながら裕福な事で知られるロレーヌ王国の国王夫妻、世界的な巨大新興宗教の指導者イージー氏までもが含まれていたのである。


 こうなる事を見越していたのか、全員を浜岡が招待していたのだった。彼が渦中の人物であったとしても、それらの著名人は事態がここまでになるとは予想していなかったのだろう。その為に連合軍の突入時刻は大幅に遅れる事となった。


 さすがに真夏である。砂漠地帯ではあったが、深夜であっても屋上に出ると風が生暖かい。眠らぬ街、サンドシティの明かりが夜空の星の様にも見えて、それはそれで美しく光り輝いていた。


 暗い事もあるかも知れないと考えて、部屋に備え付けてあった二本の大型懐中電灯を持って来た。所々にちゃんとライトが点いていて、今のところはそれ等を使う必要は無かった。


「それじゃあ、最終的に戦略の確認をしておきます。本当に申し訳ないのだけれど、皆さんでブラックと戦って下さい。ブラックの動きに負けないのは、俺だけです。俺が緑の鍵穴にキーを差し込みます。それまで何とか持ち堪えて下さい。

 俺の予想では三十秒位です。三十秒間持ち堪えれば良いのです。彼等の動きの特徴は、単純な事です。連続技は無いのに等しい。勝つことは難しいのですが、持ち堪えるのならば、十分に可能です。

 先ず最初に彼等に皆で接近します。恐らく彼等は突進して来るでしょう。俺が真っ先に飛び出して彼等の隙をついて部屋に入ります。

 彼等が戻れない様に足止めして下さい。その役目を影山兄妹と翔さんにお願いしたい。それから金太郎さんと竜太さんは陽子さんとユミさんを守って欲しいのです」

「別に私達を守らなくても良いのに!」

 即座に陽子とユミは不満を漏らした。


「いや、お二人には、エレベーターの側にいて貰います。何かの時に直ぐにエレベーターで逃げられるようにスタンバイしていて欲しいのです」

 夢限の上手い言い方に陽子とユミは渋々承知した。その時、

「パン! パン!」

 と、階下から銃を発射したような嫌な音が聞こえて来た。


 途端に春川陽子の顔色が変わった。

「何の音だ? ひょっとすると……」

 金太郎が怪訝そうな顔をする。

「銃の音じゃないの? いえ、銃を撃った音よ!」

 影山リカが険しい表情で言った。


「ダダダダダ! キィーン!」

 今度はもう紛れも無く、マシンガンの音である。『キィーン!』というのは兆弾ちょうだん、弾のはじける音である。その直後、

「キャーーーッ!」

 何人かの女性の悲鳴が微かに聞こえた。それからシーンと静まり返った。


「連合軍が突入したのかな?」

 竜太が緊張した面持ちで言った。

「いや、突入したらこんなものではないでしょう。もっともっと長く続く筈です」

 翔はなかなか冷静である。


「アアアアーーーッ! ダメーーーッ!」

 悲鳴を上げて、ぶるぶる震えているのは陽子だった。例の発作がまた起きたのだ。全身が震え涙がぼろぼろ零れだした。

 両手を握り締め必死に堪えているが今にも倒れそうだった。銃の音やマシンガンの音、特に女性の悲鳴に過敏に反応してしまったのだろう。


「ああ、これはダメだ。悪いんだけどユミさん、医務室に連れて行ってくれないか。落ち着くまで一緒にいて欲しい」

「ええっ! 私がですか?」

「うん、陽子さんは前にもこんな発作を起こした事があってね。暫く安静にしておかないととても危険なんだよ」

「ううう、わ、私に構わずに行って下さい!」

 陽子は震えながらも、必死になって言った。


「ダメだ。ユミさん、陽子さんを頼みます。それと医務室だからといって安全だとは限りませんよ。病気が治ったら力を合わせて、他の患者さん達の身の安全を図って下さい。

 場合によっては患者さん達を他へ移す事になるかも知れない。そういう時の為にそこにいてあげて下さい。お願いします」

 夢限は真剣な表情で頼んだ。


 ユミは少し躊躇ったが

「医務室を守ることも大切な仕事ですよ、ユミさん!」

 翔にもそう言われて、ユミは溜息一つ吐いて納得した。

「ふう、分かりました。陽子さん行きましょう。じゃあ皆さん、グッドラック!」

「ああ、君達もね」

 譲治と翔とが一緒に言った。他の者達はただ優しく見送るばかりだった。

『医務室が安全という保証は本当に無いのだ。何とか生き残れよ!』

 夢限はそう強く思っていた。

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