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知恵のある野獣(2)

「きゃっ!」

 かなえは小さく悲鳴を上げた。エムと名乗る男が恐ろしくて余り声が出なかった。かなえの押したボタンは警備員室の他に、館主の居る『館主の間』にも連絡が入る様になっている。そのサインを見たのだろう、何人かの弟子を引き連れて天の川光太郎がやって来た。


「うむ、君達は二人を医務室に連れて行きなさい」

 光太郎は落ち着いた様子で弟子達にそう言うと、受付嬢のかなえに事情を聞いてから、

「何か私に用事があるのかな?」

 堂々とした態度で男に話し掛けた。


「俺はあんたと試合がしたい。それだけだ」

「成程。しかし貴方が私と戦うのに相応しいかどうか私は知らない。どうだろう、貴方の実力を試させて貰えないだろうか」

「どうするんだ」

「私の弟子達の何人かと試合をして貰いたい」

「いいだろう」

「ではこちらへ」


 光太郎は残りの弟子達と共に男を第三道場に連れて行った。そこは上級者のみの入れる、初、中級者にとってはあこがれの場所でもある。

 ちなみに初心者は最も広い第一道場、中級者は第二道場、その他に最上級者の為の『銀河の間』という風に分かれている。銀河の間に入れる者となるともはや雲の上の存在だった。


 第三道場に着くと部屋の中から鋭い気合が数多く聞こえて来る。かなりの人数が居る様である。

「コン、コン」

 館主の光太郎がノックすると、

「どちら様でしょうか?」

 丁寧な応答があった。まるで館主が来ることを予測していたかのようだった。

「光太郎だが」

「あ、はい、失礼致しました」

 ドアが開けられて、第三道場の責任者、室長の大隅和也おおすみかずやが現れた。


「これは館主。今日はどの様な御用件でしょうか?」

「うむ、この者がわしと試合をしたいと言ってな。しかし帯の色が白なので実力の程が良く分からん。有段の域には達していると思うがここでその実力を測って貰いたい。お客様だから『丁重ていちょうに』な」

「分かりました。『丁重に』ですね」

「そうだ、『丁重に』だ」


 二人は『丁重に』を強調し合った。これは一種の暗号で、連れて来られた者の本当の目的や背後関係などを聞き出せ、という意味である。

 その為には袋叩きにしても構わない。大怪我は勿論の事、場合によっては死に至らしめても良い、ということだった。全ては試合中の事故として処理されるのである。道場生以外の目撃者が居ないので何とでもなるのだ。


 天空会館は全世界に千を超える支部を持つ。各支部からの上納金は結集して巨万の富となる。その富を狙ってならず者達がしばしば道場にやって来る。

 大抵は警備員に取り押さえられるのだが、時折手におえない連中が来る。その連中が『丁重に』持て成しを受けるという訳である。


「じゃあ宜しく頼む。終ったら連絡をしてくれたまえ」

「分かりました」

 男は道場に入れられ、光太郎は館主の間に戻って行った。ドアが閉められ、練習をしていた者達は止めてきちんと正座して並んだ。

 中央が大きく空いて如何にも試合をするような感じになった。室長の大隈は男を道場の中央に移動させ、そこで質問を始めた。館主の前とではガラリと違う態度だった。


「お前の名前は?」

「エムと言っておこう」

「エムだって? 本名を言わんか!」

 大隈は恫喝どうかつした。しかし男は動じない。


「本名を名乗るのはこの道場に入門する気になってからだ」

「ふふん、そう言えば前にも居たな、A、B、Cなどと名乗ったふざけた三人組が」

 大隈はわざとゆっくり質問した。館主がこの部屋を出て直ぐ事を起こしたのでは、彼に疑いが掛らないとも限らない。万に一つもその様な事が無い様に細心の注意を払っているのである。

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