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恐怖の賭け(3)

「くっ! 桑山、お前は何様の積りだ! 私に投降しろなどとは百年早いわ! いいか良く聞け! この屋内格闘場には今観客と関係者合わせて四万人近い人間がいる。

 つまり四万人近い人質がいるのと同じ事だ。既に出入り口は完全に封鎖されている。馬鹿な観客どもを夢中にさせる凝った演出が上手く行って、誰も帰ろう等と言う者は無い。

 まだ誰も真相に気が付いていない。しかしもうじき知る事になる。おいそれと家に帰る事が出来ないのだという事をね。

 そこでものは相談だが、取り囲んでいる軍隊を引いて貰いたい。それから別荘の明け渡しを要求する。勿論地下都市からの撤退もだ。

 要求が呑めないのであれば一日に十人ずつ殺して行く。人質全員を殺すのに十年は掛る事になるぞ。ここの地下倉庫には莫大な食料が貯蔵してあってね。

 十年やそこらは軽く籠城出来るんだよ。しかも恐怖におののきながら人質が殺されて行く様を全世界に放送出来る。マスコミがたっぷり集まっているからね」

「参りましたね。しかし貴方の要求はそう簡単には呑めませんよ。また後で連絡します。それじゃ」

 そこで一旦通信は途絶えた。


 浜岡は美千代に苦々しい表情で言った。

「桑山という男を少し甘く見たな。早目に始末して置けば良かった。なかなか切れる男だったんで上手く利用出来れば、何かの役に立つと思ったんだが、少々恩情が過ぎた様だわい」

「別に私は構いませんわよ。こっちの方が、とんとん拍子に行くより刺激があって楽しいわ」

「はははは、全くお前という奴は大した奴だ。これで生き延びられる確率は五パーセント未満になった。恐らく千や二千の犠牲は覚悟の上で突入して来るだろうよ。決戦は明日の早朝、暗いうちだろうな」

「私もそう思います。目に物見せてあげましょうよ」

「ああ、そうする積りだ。ふふふふ」

「うふふふ」

 二人は不敵に笑いながら、何も知らずに湧き返っている会場を如何にも楽しげに眺めていた。


 しかし再びモニターテレビに映ったのは、今度は屋内格闘場のスパイからの苦々しい報告であった。

「申し訳ありません、ナンシー山口と小笠原美穂の行方が不明です。格闘場の外に既に出てしまったものと思われます」

「クッ! 生意気な事を! しかしナンシーはともかくとして、あの野獣のエムが良く女を手放したな。野獣は野獣らしく二匹のメスを従えておれば良いものを。ええい、忌々(いまいま)しい! ……良し、これからは蟻一匹逃すなよ!」

「はっ! 誰も出さず、誰も入れません!」

 スパイは相当に緊張した様子で頭を下げてから連絡を切った。


 美千代は、

「でももう彼女達の役目は終わった様なものですから、大した事ではありませんわ」

 そう言って、浜岡を慰めた。


「まあそうだな。人質は多ければ多いほど良いのだが、一人や二人どうという事は無いな。そろそろ茶番は終わりにしようか?」

 浜岡は場内の喧騒がもう少し静まるのを待っていた。


「ギギギッ、ガシャ、ギギギッ、ガシャ」

 リングの上から転落したブラックはゆっくりと自力で起き上がると、重そうな足取りで、自分の席に戻ろうとしていた。


 頭から落ちた影響で、首が少し曲がっている。ダメージが大きかったのか、あれほど滑らかに歩いていたのが、いまは如何にも壊れた機械らしいガチャガチャした音を立てながら足を少し引き摺って歩いていた。


 その方向は定まりが無く、まるで酔っ払いの様である。暫く歩くと、とうとう転んでしまった。しかしまたゆっくりと立ち上がり、よろよろと歩いて行った。何故かそのブラックを介抱(?)しようという係員は一人もいなかった。


 そのことに美千代が気が付いた。

「まあ、あのロボット、ブラックと言ったかしら、無様ですわねえ。どうされます?」

「ふん、エムには勝つと思ったんだが、負けたのなら用は無い。あと二、三分で動かなくなるだろう。用無しに構っている事も無い、ほっておけ!」

「でも何だかこっちに向かって来ている様な気がしますけど?」

「頭をかなり打っているからな、うん? どうしたんだ?」


 ブラックは不思議と貴賓席の側に寄って来る。元々彼の席は貴賓席の側だったので、近くに来てもおかしくは無いのだが、自分の席を通り越して、遂に貴賓席の直前までやって来た。


「ガンッ!」

 何を思ったのかブラックは防弾ガラスを拳で叩き始めた。

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