恐怖の賭け(2)
体形から見て相当格闘技の経験のある女性らしく、格闘技を良く知らない素人のアナウンサーではないようだった。
「優勝おめでとう御座います。ブラックは先程のキングよりも強いかと思いましたが、戦ってみてどうでしたでしょうか?」
「最初はそう思ったんですが、攻撃力は思ったほどではありませんでした。単独の技は確かにほぼ完璧にマスターしていましたが、連続技が殆ど出来ないので、攻撃自体は単調で大したことが無くてやり易かったです」
「しかしなかなか倒せませんでしたね」
「はい、攻撃力は大した事が無いのに、防御力は異常に強かったんです。人間の様な急所が無いのでかなりてこずりました。あのままいっていたら良くて引き分け、下手をすると負けていたでしょう」
「途中から、ちょっと妙な攻撃をしていましたね。盛んに小指を使っていました。あれは何か意味があったんですか?」
「はい、ルール的にどうかと思うのですが、ブラックの場合、全身に目が付けてありました」
「ええっ! 全身に目が有ったんですか?」
「はい、反応が余りに速いのでおかしいと思ってよく見たら、顔の目の他に三十個ぐらい小さな目が一センチ位の窪みに付いていました。小指で突いてその目を壊していったんですよ」
「ああーっ、そうだったんですか。私には何をしているのか全く分かりませんでした。小指で無いと駄目なんですか?」
「はい穴の口径が小さくて、小指でないと入りません。他の指だと抜けなくなる恐れがありましたので」
「そうでしたか。ところで大変な額のギャラが手に入るのですが、何に使われます?」
「ははは、今まで世話になった人達に恩返しが出来れば良いなと思っていますが」
「ああーっ、偉いですね。素晴しい事です。それではこれで共同インタビューを終ります。お疲れの所、本当に有難う御座いました!」
「いや、どういたしまして」
会場中、いや、テレビ中継を通して、世界中がロボットに対しての人類の勝利に陶酔していた頃、貴賓席で浜岡は苦々しい思いをしていた。
「お久し振りですね、浜岡博士。桑山雄二です」
「お、お前は、桑山! どうしてそこにいる!」
「現在、地下都市のムーンシティはアメリカ軍が押さえています。野々宮君の案内でね」
「やっぱり野々宮が裏切ったのか!」
「いいえ、彼は、自分の身を守ったのですよ。地下都市に案内する事と引き換えに、身の安全をアメリカの大統領に保障して貰ったんです。私も口添えしましたがね」
「くっ、貴様等! ……しかし君も知っているだろう、私の用心深さを」
「学生時代は結構長い付き合いでしたからね、良く分かっています。私が今居る、ここが貴方の別荘だと言う事は分かっていますよね」
「当たり前だ。人の別荘に勝手に入り込むというのは犯罪だぞ!」
「あははは、貴方に言われたくはありませんね。勿論オーストラリア政府から許可を頂いていますよ。ああ、隣におられるのは東郷美千代さんじゃありませんか」
「はい、ご無沙汰しております。もうとっくにお亡くなりになっていたのかと思ったら、まだ生きていらしてたんですね」
「はい、お陰さまで、随分煮え湯を飲ませて頂きましたが、何とか立ち直りました。そこでお願いがあるのですがね」
「何で御座いましょうか?」
「投降をお願いしたいのです。無駄な血を流したくはありませんから」
「妙な事を仰しゃいますわね。私は無駄な血が大好きですの。貴方も良くご存知でしょう?」
「そこを何とかして貰えませんかねえ。そこの屋内格闘場は既に十重二十重に世界連合の軍隊によって取り囲まれているんですよ。約十万人の軍隊です」
「い、何時の間に!」
浜岡の顔は引き攣りそうになった。
「密かに準備していたんですよ。浜岡という恐ろしい男にはこの位もしないと危険極まりないと、各国首脳に何度も念を入れて連絡しておいたのです。
ああ、そうそう、とうとうロボットの一斉蜂起のチップはほぼ完全に取り除きましたからね。野々宮さんのホームページは役に立ちましたよ。
暗号解読に手間取りましたが、何とか間に合いました。それと地上のロボット兵の確保もほぼ完璧に終っています。お二人にお願いしたい、今投降すれば少なくとも生命の保証は致しますから」
桑山雄二は余裕で言った。