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恐怖の賭け(1)

 大いに疑念はあったが試合開始早々止める訳にもいかず、金雄は直ぐに首を足で絞める荒業に出た。技は見事にきまって、相手が人間ならば先ず一分とは持たずに失神するだろう。しかしブラックは何事も無いかのように手足を動かして金雄を攻撃して来る。


『だ、駄目だ。全然効かない。絞め技は意味が無い。ならば関節技はどうだ』


 金雄は今度は肘の関節技に入った。これも人間ならば骨が折れるほどの力を込めても、平気で残りの手足で攻撃して来る。


『やっぱり駄目だ。これは不味いぞ。ダメージの与えようが無い。何が天の川光太郎と能力が同値だ! くそっ! ルール違反だ!』

 金雄は思い余って試合を放棄しようかと思った。


『これはルール違反だ。人間には絶対勝てないように仕組んである!』

 そう叫びたかった。確かに正当性はある。しかし何だかとても悔しいのだ。


『何だかんだと言っても、結局ロボットには勝てないのか! そう言われるだろうな……』

 金雄は一方的に攻め続けながらそんなことを考えていた。金雄の動きはキング戦にも増して素晴しくブラックを圧倒している様に見える。


「ウワーーーッ! オオーーーッ!」

 金雄の攻撃が決まる度に観衆は歓声を上げた。幸か不幸か一瞬だがブラックの動きが止るのでダメージがあるように見えるのだ。


「エムが勝つのは時間の問題だな!」

「ブラックはもう直ぐダウンするだろうよ!」

 結構大きな声でそんな会話が聞こえて来る。しかし、五分過ぎ、十分過ぎてもブラックは全くダウンしない。


 それに反して金雄の動きは徐々に悪くなって来た。攻め疲れて来たのである。観衆達もその事に漸く気が付き始めた。


「このままじゃエムは危ないぞ。やっぱりロボットには勝てないのか!」

「どうしたエム! 同じ攻撃の繰り返しじゃあ埒が明かないぞ!」

 観衆からは次第に野次が多く聞こえ始めた。彼等はブラックの底知れない防御力、天の川光太郎どころではない、否、人間であるならば絶対に有り得ない鉄壁の防御力を知らないのである。


『しかし何か妙な所もあるぞ……』

 心無い野次に耐えながら金雄はブラックの素早い反応に何か不自然さを感じていた。


『試してみよう!』

 ブラックの後ろに回り込んで攻撃してみた。するとまるで後ろに目があるかのように、正確に防御するではないか。


『やっぱりそうだ。顔の目ばかりが目なのではなくて、目は全身にある!』

 そう結論付けた。


『あれかっ!』

 全身に目があると思って見れば、確かに一センチほどの口径の小さな穴がいたる所にある。その奥の方にレンズらしきものが付いているではないか。


『小指なら何とか入って行くな! 力を入れて突けばレンズを壊せる!』

 金雄は小指も相当に鍛えている。ただ目標が小さいので突き壊すのは容易ではない。それでも勝つ為にはそれしかないと思った。


 しかしその金雄の戦い振りは、嘲笑を誘った。


「アハハハハ、ナンジャソリャ! オーイ、エム! マジメニヤレ!」

 野次やブーイングがますます増えて来た。それでも金雄は小指でブラックを攻撃し続けた。全身の目は凡そ三十個あった。


『これで五個、くそ時間切れにならなければ良いがなっ!』


 五分毎に里美が時間の経過を伝えてくれる。既に時間は二十分経過している。間に合わなければ引き分けだが、出来ればそれは避けたかった。


『半分は壊したぞ! 後ろを中心に壊したから、後ろに回った時の反応が明らかに鈍くなった。あと五分もない。良し、もう一度あれをやろう!』


 金雄は一か八かキングを倒した方法をブラックに対してもやってみる事にした。


「こっちだ! こっちへ来い!」

 金雄はロープを背にブラックを挑発した。ブラックは躊躇無く突っ込んで来た。


「ビュン!」

 疲れているとはいえ、金雄の動きはやはり素晴しく、あっと言う間にブラックの後ろに回り込んで強烈な飛び蹴りを食らわした。


 キングほど背の高くないブラックは最上段のロープすれすれにリングの外に落ちて行った。


『足を引っ掛けて、場外に落ちるのを防ぐかも知れない!』


 金雄の読みは当たった。ブラックは足首をかぎ状にしてロープに逆様に釣り下がった。金雄は間髪を入れずにロープを掴んで激烈な膝蹴りを腹部に食らわした。ブラックは真逆様に頭から床に落ちて行った。


「ウィナー! エームーーー!」

 神山里美のアナウンスが金雄の勝利を高らかに宣言すると、

「ウウオオオワアアアーーーーッ!!」

 物凄い大歓声になった。それと共に、

「エームー! エームー! エームー! …………」

 またも『エームー!』のシュプレヒコールが延々と続いた。


 場内の興奮が収まらない内に放送局を代表して、格闘技にしては珍しく、女性のレポーターがインタビューの為にリングに上がって来た。

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