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幻の強者(11)

「オレノイチバンノ、トクイワザデ、コイトイウノカ! オモシロイ! ナラバイクゾ!」

 キングの形相は物凄く、体勢を低くして、

「ウオオオーーーッ!」

 獣染みた声を出して怒涛の勢いで金雄に突っ込んで行った。

 

「ああ、もう終った!」

 何人もが思わずそう呟いた。

「ビュン!」

 その瞬間やけに大きな風を切る音がした。


「ウワアーーーッ!」


 今度は会場中から驚嘆の声が上がった。金雄がまるでキングの体を突き抜けたかのような錯覚が生じた。何時の間にか金雄はキングの後ろにいたのだ。

 金雄のごく短い時間、瞬間的な移動能力は、スパルクのそれをも遥かに凌ぐのだという事を、この時初めて皆が知る事となった。


 キングは目の前にいたはずの金雄がいなくなって、慌てて自分の体を止めようとして前につんのめりそうになった。


「キエーーーッ!」

 金雄の渾身の両足飛び蹴りが、辛うじてつま先だけで立ってバランスを取って、何とか踏み止まろうとしていた、キングの背中のやや上の方に激突した。


「バアアーーーンッ!」

 凄い音がしてキングは前に倒れこんで行った。背の高さが災いした。普通ならロープにはばまれて、そこで止まるのだが、彼の場合は最上段のロープよりかなり上に頭がある。


 落ちまいと必死にもがいたのだが、まるで自然の法則にそのまま従うかのように場外へ頭から落ちて行った。それでも何とか足をロープに引っ掛け様としたのだが間に合わなかった。

 それどころか彼の勝負への執念が災いして、受身も取れずに頭から床に突っ込んでそのまま悶絶してしまったのである。彼は直ぐタンカで運ばれ、スパルクや原田源次郎と同じ様に病院送りになってしまった。


「ウィナー、エームーーーッ!」

 レフリーが金雄の勝利を宣言すると、

「ウワワオオオーーーーッ!」

 今までにも増して大きな歓声が上がり、

「エームー! エームー! エームー! エームー! …………」


 何度も何度も彼の名前が呼び続けられた。普通ならここで勝利者インタビューなどが行われるのであるが、今年に限っては、まだもう一試合、幻の強者との試合が残っている。

 さすがの金雄も相当に疲れていたのでインタビュー等は無しにして直ぐ控え室に戻った。それから一時間ほどアトラクションがあり、その後で幻の強者と戦う。何とも言い様のない位極めてハードなスケジュールである。


 控え室に戻った金雄は、直ぐシャワーを浴びてから、すかさず仮眠を取った。キングにやられた右の足首はまだ相当に痛かったが、冷シップ剤を係りの者に貼って貰った。

 ナンシーの不在は緊急の用事が出来た事にしてある。特に係りの者が疑問を持つ様な事は無かったようである。うとうとしたと思っていると、あっという間に時間は過ぎ係員に起こされて、また少し体操などをしてから会場に向かった。


「幻の強者というのは誰なのかな?」

 会場中でひそひそと囁き声が聞こえる。

『本当に一体誰なんだ?』

 金雄も気になっていたが全く公表されていないのだ。


「ひょっとして、ライオンとかトラとかじゃないのかな?」

 等と言う声も聞こえる。

「まさか、昔ならいざ知らず、今だと動物愛護団体が煩いから無理だろう」

 そんな取り止めのない会話で会場中がざわついていた。金雄は係員に誘導されてリングに上がった。相手はまだ現れない。


 間も無く女声アナウンスが試合のルール等について放送しだした。日本語を始めとして主要な世界の言語で同じ内容が放送される。


「次の試合は特別ルールで行われます。ハイテク防具は使用しませんので、エムさん係りの者にグラブ等の防具を取ってお渡し下さい。

 尚道着はそのままで結構です。これでエムさんの攻撃力は倍加しました。しかもハイテク道着があるのでボディに対する防御力はそのままです。つまりエムさんは大変有利な条件で戦う事になる訳です」


 事務的な説明に不満を感じた者達のざわつきは更に大きくなった。

「ハヤク、マボロシノキョウシャヲダセ!」

 一人が叫ぶと、

「ソウダ、ハヤクダセ!」

「マボロシノキョウシャヲダセ!」

 口々にそう叫び出す者が現れた。


「それでは大変長らくお待たせ致しました。幻の強者、ブラック! の登場です」

 アナウンサーがそう言うと会場の明かりは落とされて、貴賓席の近くにスポットライトが当てられた。


 すっと立ち上がったのは、浜岡のボディガードの一人である。何を思ったのかいきなりスーツを脱ぎ始めた。しかしその下にあったのは、人の肌ではない。黒光りする明らかにロボットだった。


 頭の皮を掴み上に引き挙げると、中からロボットのマスクが現れた。服も頭皮も取り去ると正にブラックの名に相応しい見事なまでに精悍せいかんな、一体の黒光りするロボットがそこに立っていたのである。

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