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幻の強者(5)

「互いに礼! 始め!」

 レフリーは黒人だったが日本語は綺麗な発音だった。主催が天空会館のせいもあってか、今日の決勝リーグ戦は全て日本語で試合を行わせる様である。


「ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!」

「ウオオオオーーーンッ!」

 会場内の興奮はどよめきに変わった。余りに動きが速く、動き回る風の音だけが聞こえ、どういう戦い方をしているのか良く分らないのだ。


 しかし金雄の動きに一番驚いているのはスパルクだった。僅かに自分の動きが勝るものの、余裕が無くて有効打が打てない。彼にとっては初めての経験だった。


『ク、クソウ、コウナッタラ、ヤムヲエナイ!』

「クラエッ!」

 スパルクは拳を軽く握って、勿論反則ではあるが親指で金雄の目を突きに行った。何度も何度もやった。非常に素早いので金雄以外の人間にはその反則技は先ず見えないのだ。


 しかしその種の攻撃を金雄は地下格闘場で十分経験済みである。手の平で受け止め、段々慣れて来ると、瞬間的に押し返す事も出来た。


「ウグググッ!」

 七、八回目位だった。スパルクはかなり酷い突き指状態になり、指を抑えてしばし動きが止まった。ここでは、その種の活動停止もダウンと見なされる。


「ワン、ツウ、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト!」

 カウントエイトで何とか持ち堪えたが、スパルクの動きが傍目はためにも少し悪くなった。そうなると最早金雄の独壇場である。


「リャッ! リャッ! リャッ! リャッ! …………」

 ごく短い気合を入れながら、小さなダメージを数多く入れて行く作戦に出た。動きが遅くなったと言っても、大きな動きで止めを刺しに行くのは危険である。


 捨て身の反撃で一気に逆転する事も有り得るのだ。決して油断の出来る様な弱い相手ではない。金雄のその攻撃は功を奏して、数分後には、スパルクの顔に苦痛の色が現れ出した。その一瞬を金雄は見逃さなかった。


「ウリャーーーッ!」


 飛び膝蹴りがスパルクの左頬を捉えた。スパルクは堪らずダウンした。


「ワン、ツウ、……、エイト、ナイン、テン! ウィナー、エームー!」


 スパルクはテンカウントの直後に立ち上がったが、勿論既に勝敗は決している。


「ウワオオオーーーーーッ!」

 館内に大声援が巻き起こった。一応手を上げて観衆の声援に応えた金雄だったが、

『この勝利も何もかも浜岡の思惑通りか!』

 と思うと、必ずしも手放しでは喜べなかった。


 しかし通路を帰る時に、聞き覚えのある声が幾つか聞えて来た。ちょっと離れてはいたが、ほぼ一塊になって見覚えのある顔が幾つも見えたのだ。両手を振って盛んに声援してくれている。


「頑張れ! やったな!」

「金雄さーん! 金雄さーん!」

 夢ではないかと思った。太い声は早川金太郎。座席の前に立って応援しているのは春川陽子。影山兄妹もいる。妹のリカは何だか泣きながら声援している様にも見える。


 それから佐伯親子。この二人は何故だか鉢巻をして声援している。ゆったりと風格のある応援をしているのは安藤翔である。

 さすがにこの時ばかりは金雄も立ち止まって声援に応えた。かなり深く頭も下げてから控え室に戻った。正直、物凄く嬉しかったのだ。


 ただ、少し奇妙に思ったのは早川金太郎の事である。佐伯親子とは犬猿の仲の筈である。

『どうして直ぐ近くにいるんだろう? 和解したんだろうか?』

 事情は良く分からなかったが、それはそれとして部屋のテレビで、キングの試合を見る事にした。


 考えてみれば、キングの事もそして対戦相手の原田源次郎の事も、どういう戦い方をするのか良く知らないのである。一応シャワーを浴び、ナンシーが買った食料の残りを食べながら観戦する事にした。


 間も無く試合が始まったがキングと源次郎の戦い方は、金雄が予想したものとは大分違っていた。否、誰も予想しなかった様な戦いぶりだったのだ。


 二人ともいわゆる王者の風格といったものが感じられた。しかしキングは大きい。二メートルを軽く超えている。腕や足が太くがっしりしていて、正に筋肉の塊の様に見える。

 対する原田は、普通の大会だったら彼がチャンピオンになっていただろうと思わせるほど均整の取れた体格と、闘志とを感じさせた。


「タガイニレイ! ハジメ!」

 今度のレフリーは中国系のアメリカ人である。如何にも英語の訛りのある日本語だった。


「オリャーーーッ!」

「キエーーーッ!」

 いきなりローキックの相打ちだった。これだけならさして驚かなかった。


「バシイッ!」

 相打ちの音が激しく響く。


「キアーーーッ!」

「ウリャーーーッ!」

 今度はお互いのボディへのパンチのやはり相打ちだった。

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