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幻の強者(3)

「に、人間狩り!」

「ああ、そうだ。本当の生きた人間を、狩猟するという恐ろしい遊びだ。そんな事を間も無く始めようとしている位だからな。

 浜岡にとって俺達は単なる道具に過ぎないのさ。用が済めば、良くて直ぐ殺される。悪ければこの世の生き地獄の様な人間狩りの標的にされる。

 それでも俺一人だったら何とか逃げられる。必ず逃げてみせる。しかし美穂さんやナンシーがいては足手まといなんだよ。頼むから逃げてくれ!」

 金雄はナンシーの時の様に深々と頭を下げた。しかし美穂はなかなか首を縦には振らなかった。


「今、ちょっとナンシーに電話するから」

 金雄はナンシーに貰った折り畳まれたケータイカードを開いた。間も無くナンシーが画面に映った。

「ああ、ナンシー、こっちの方はオーケーだから直ぐ帰って来てくれないか。あれ、どうした、顔色が冴えないぞ」

「ああ、ちょっと寝不足だからよ。それに化粧もちゃんとして無いし。あの、分かったわ、直ぐ帰るから。じゃあ、切るわよ」

「うん」


 短い会話だったが、顔が映るので実際の会話の情報より遥かに多くの事が分かる。

『場所は多分外の公園の様な所だな。ひょっとするとナンシーの奴泣いてたんじゃないのか?』

 そう思うと金雄の胸がひどく痛んだ。


『あああ、俺はどうすればいいんだ。今はナンシーが一番大事だが、美穂も粗雑には扱えない。二度と美穂には会えないと半ば信じていたんだがな……』

 金雄は迂闊な事をしたと後悔したがもう遅い。


『身から出たさびか。俺のこんな姿を見て浜岡の奴は笑っているんだろうな。やっぱりお前は野獣だ、けだものだ! と、罵っているんだろうな』


 ほんの数分でナンシーは走って戻って来たが、戻るまではジリジリする程待ち遠しかった。美穂とはその間沈黙という、苦い会話をし続けていた。


「ハア、ハア、ハア、た、ただいま」

「ああ、お帰り。そんなに急がなくても良かったのに」

 金雄は気持ちとは裏腹の事を言った。それから今度はナンシーに美穂と一緒に逃げることを勧めた。ナンシーは一応は了解していた筈である。


「私は何と言われても、金雄さんと一緒にいる覚悟だわ。死ぬ覚悟は出来ています。ナンシーさん、逃げたければお一人で逃げて下さい」

 ナンシーに言われても、たとえ浜岡に殺されても美穂は逃げないと言い張った。


『困ったなあ、出来れば手荒な真似はしたく無いんだけど……』

 金雄は遂に非常手段を使う事にした。ナンシーの買って来た大きな袋の側に寄って行って美穂に声を掛けた。


「美穂の言う事は良く分かった。ここは取敢えず休戦と言う事にして、一緒にお昼を食べないか。ちょっとこっちへ来て手伝ってくれないか」

「ええ、良いわよ」

 美穂は喜んで金雄の側に走り寄った。

「とっ!」

 軽い気合を入れて、金雄は美穂の腹部に当身を食らわせて失神させ、その場に静かに寝かせた。


「ナンシー、お仲間に伝えて彼女を寝ている事にして、安全な所へ運び出してくれないか」

「えっ、あっ、は、はい」

 ナンシーは漸く金雄の考えている事に気が付いて安川に連絡した。車で格闘場の前まで迎えに来てくれる所まではすんなり話がまとまったが、問題なのは美穂をどうやって運ぶかである。


 ナンシーの買って来た大きな袋を見て金雄は閃いた。

「ナンシー、ここの売店でも何処でも良いんだけど、大きな旅行鞄で車輪の着いた奴は無いかな。ひょっとして安川君辺りが持ってないかな。それに美穂を入れて運ぶんだ。短い距離なら危険な事は無いと思うんだが」

「そうね、一応安川君に聞いてみるわ」


 幸いな事に安川は大きな荷物の一つや二つはあるだろうと思って、ちゃんと支度してくれていたのである。それから十分ほどで乗用車が二台、格闘場の金雄の控え室から一番近い出入り口に横付けされた。


 大きな旅行鞄を引きながら安川を始めとするナンシーファン数人がやって来た。美穂を静かに入れると、大急ぎでナンシーと一緒に車までの数十メートルを走った。


 ただその鞄の中に金雄が隠れていると誤解されない為に、敢えて金雄はレストランで昼食を取る事にした。野次馬達に取り囲まれる事を覚悟した。


「さあて、腹ごしらえでもするか!」

 わざと大きな声を出してなるべく目立つ様にした。それから素知らぬ振りをしてナンシー達を見送り、二台の車が見えなくなった所で足早にレストランに向かった。


「エム! エム!」

「ああ、エムだぞ!」

 そんな叫び声があちこちからして、じわじわと人が集まって来る。そこでも幸いだったのは、怖がって直ぐ側までは誰も寄って来なかった事である。

 そのお陰で何とかレストランに行き着いて、上手い具合に昼食を取ることが出来た。何時も一緒にいるナンシーの姿が見えない事には、特には誰も関心を寄せていない様なので、その点も安心だった。

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