表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/260

幻の強者(2)

「だけど丁度その頃に奥さんの紀子さんの妊娠が分かったのよ。そうなると愛人の恵美さんが邪魔になったのね。僅かの手切れ金で天空会館から追放しちゃったのよ」

「ひ、酷い事をする!」

「結構世間ではあることだわ。で、その時恵美さんのお腹の中には貴方が居たのよ」

「成る程、少し分かって来た。それで?」

「貴方のお母さんは、ご両親が早くに亡くなって、一人で暮らしていたんだけど、悪い時には悪い事が重なるものね。勤めていた会社が倒産したのよ。

 会社の給料とかボーナスとかを当てにして借金していたから大変なことになったの。それでサラ金に手を出して、借金は雪ダルマ式に増えていったのよ」

「あの冷静な人がそんな事をしたとは信じられないな。しかし、今時だったら、生まれた子供を認知して貰えたんじゃないのか。

 血液型やDNA鑑定等もあることだし、もしどうしても認知して貰えなかったら、その時は裁判に掛ければ勝てると思う。そうなれば多額の慰謝料が入って、サラ金から借金などする必要もないと思うけどね」

 金雄は納得出来ずに聞いた。


「ところが彼女は命を狙われていたのよ。事情を知っているごく一部のものが、天空会館の発展の妨げになると考えて、刺客を送り込んで来たみたいなのよ」

「何だか俺の時と似ているな」

「そう言われてみればそうだわね。その刺客を送り込んで来た首謀者は光太郎の奥さんの紀子さんらしいんだけど確証は無いみたい。

 とにかくそれでは裁判どころで無くって、思い余って大樹海に逃げ込んだらしいのよ。借金取りと、刺客の両方から逃げる為にね」

「そうか、それで人間は恐ろしいものだと俺に母さんは教えたんだ。俺が捕まって人質にでもなったら、母さんもギブアップだからな。人を見たらとにかく逃げろと言ったのも頷ける」

「そういうことになるわね。貴方に苗字とか、お父さんの名前を教えなかった訳も分かったわ」

「それは、どういうことなんだ?」

「貴方が街で誰かと話をした時、うっかり大崎夢限だと言ったり、父親は天の川光太郎だなんて言ったりしたら、貴方の命に関わるでしょう?」

「成る程、それは確かにそうだ。ハァーーーッ! 長い間解けなかった謎がとうとう解けた。そういうことだったんだ……、ふーーーっ!」

 金雄は深い溜息を付いた。


「ちょっと言い難い事を言えば、貴方が強い訳も分かったわ。天の川光太郎の血を引いているんですものね。それにお母さんも普通だったら、女子の格闘家として大成していた可能性は十分にあった筈だもの」

「……俺は天の川光太郎を父親とは認めない。俺には父親はいない。大崎恵美、彼女だけが俺の親だ。美穂さん、悪いんだけどこれからは余り彼の、天の川光太郎の話はしないでくれ。俺にとっては母さんの仇みたいなものだからね」

「……分かったわ。なるべく気を付ける様にする。それであのう」

 美穂が次の言葉を話す前に金雄が割り込むように話し掛けた。

「その前に部屋の隅にある身分証を見てくれないか? それと声を小さくしてくれ」

 金雄は急に声を潜めて言った。


「分かった。ああ、あれね。あれがどうかしたの?」

「あれは浜岡が仕組んだ盗聴器なんだよ」

「ええっ!、あれが!」

「そう、普通の会話は良いんだけど、例えば一緒に逃げる様な話は余り聞かれたくないんでね。まあこの位離れていれば殆ど聞こえないとは思うけど」

「分かったわ、気をつけて話します。でもエッチの声は聞かれちゃったわね」

「それは構わないよ。彼が恐れている唯一の事は俺達が逃げ出すことだろうからね」

「ああ、そうなんだ。……ところで今金雄さんが言ったばかりだけど、私と一緒に逃げてくれないかしら。ナンシーさんが気になるんだったら、彼女も一緒でいいわよ。

 安川さんや、それから私がここに来れる様にしてくれた、桑山雄二さんという人が安全な隠れ家を用意してくれるそうよ」

 美穂は意気込んで言った。金雄が承知してくれると半ば信じているようである。


「やっぱり桑山さんが支援してくれていたんだ」

「ええそうだけど、金雄さん良く知っていたわね、桑山さんの事を」

「一応ナンシーが話してくれていたからね。反浜岡の代表みたいな感じの人だってね」

「ああ、そうなの。……それでもう一度言うけど、一緒に逃げましょうよ。出来るだけ早く」

「その事なんだけど、俺はどうしようもない、格闘技馬鹿でね。多分その為に生まれて来たんだと思う。俺はキングと戦ってみたいんだよ。スパルクとも。それから原田源次郎という天空会館の代表ともね」

 金雄はそこは譲れないという目で言った。


「だったら、試合の後でも良いわ。試合が終ったら直ぐに逃げ出しましょうよ」

「それは駄目だ。浜岡という男はそこまで読んでいると思う。恐らく三人とも殺されてしまうよ」

「い、幾らなんでも人目があるのよ。そこまでは無理だわ」

「いいや、あの男ならやる。アメリカのセントラルシティ付近の地下に、ムーンシティという地下都市があることを知っているか?」

「ええ、最近凄く話題になっているわ」

「そこに俺は暫く居たんだけど、……」

 金雄はムーンシティでの出来事を掻い摘んで話した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ