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再会(9)

「野々宮なんかの言いなりになって宜しいんですか?」

「はははは、エレベーターさえ復旧してくれれば、あいつに用は無い。復旧を確認したところでバッサリに決まっているだろう」

「うふふふ、そう来なくっちゃ! 今夜は色々と楽しみが沢山ありそうね」

「ああ、心中三人組の方も役者が揃った様だしな。どう料理するか、今から楽しみで仕方が無いよ」

「試合の方は一緒に見てくれるんでしょう?」

「当然さ。私がもう終わりだと思っている連中の鼻を明かしてやりたいのでね」

「せいぜい皆に私達の仲の良い所を見せ付けてやりましょうよ」

「そうする積りだ。私が逃げ回っていると思っている連中は皆驚くぞ。あはははは」

「そうよねえ、あはははは」

 二つの悪の花は今正に咲き誇っていた。


 暫くしてナンシーは大きな袋をげて帰って来た。

「随分大きな袋だね。食べ物をしこたま買い込んで来たのか?」

「私が居ない間に困らないように、下着やタオルやティッシュ、それから勿論食料も買って来たわよ。ああ、それから、これはカードタイプのケータイの子機よ。

 折り畳み式になっていて、開いただけで私のケータイに直接繋がるわ。使い捨てで、電源入れっぱなしだと百時間位、まあざっと五日間だけしか持たないんだけど、当座はこれで間に合う筈よ。

 試合が終り次第、いいえ、その前に連絡して。私達が何処にいるか連絡出来るわ。もっとも安川君達が案内してくれると思うんだけど。私の方から掛けた時は、振動と、明かりの点滅で分かるようになっているの。分かったかしら?」

「ああ、大体ね。ところであの身分証はどうするかな?」

 部屋の隅に置きっぱなしになっている、二つの身分証を見ながら金雄は言った。


「今更持って歩く必要は無いんじゃない? 浜岡からの指示は全く途絶えているし、外してからかなり時間が経っているけど何も無いもの。言われたらその時に付ければ良いわ。うっかり忘れた事にしましょう」

「じゃあ、そうしようか。それじゃあ朝食にしよう。ちょっとわびしいけどカップ麺プラスアルファの朝食という事で。しかしカップ麺も久し振りだね」

「ええ、そうねえ。でもたまには良いんじゃない。私は嫌いじゃないわよ。最近は具も多いし、タレなんかインスタントとは思えないほど美味しいのよ」

 ナンシーはカップ麺にお湯を注ぎながら話した。


「そうだよな、カップ麺も随分進化したよな。大樹海の中でも何度も食べたけど、不味いとは思わなかった。母さんの失敗した手料理よりは遥かに美味しかったな」

「はははは、お母さんも失敗する事があったんだ」

「ああ、ちょくちょくあったよ。焦がしたり、塩と砂糖を入れ間違えたりね」

「ええっ、それじゃあ食べられないでしょう?」

「本当はそうなんだけど、経済状態が楽ではなかったから仕方なく食べたよ。『これも修行の内よ』とか言い訳していたなあ」

「うふふふ、でも結構楽しかったんだ」

「まあね、不平や不満は言えなかったしね。さてそろそろ三分過ぎたな。じゃあいただきます」

「いただきます」

 何と無くしんみりした朝食になった。間も無く朝食も終わり、一息ついてそろそろナンシーと金雄のしばしの別れの時間が迫って来た時の事である。


「コン、コン」

 ドアをノックする音が聞こえた。

「誰?」

 緊張気味にナンシーは聞いた。金雄も半ば立ち上がって、身構えた。


「あのう、美穂です。小笠原美穂です。安川さんから聞いて来ました。金雄さんいますよね?」

「えっ! み、美穂!」

「はい。ここ開けても良いですか?」

「ど、どうぞ」

 ナンシーは覚悟を決めてドアを開けた。間違いなく本物の小笠原美穂だった。


「美穂! だ、大丈夫なのかここに来ても!」

「安川さんが大丈夫だって言ってくれたの。うううっ!」

 美穂は金雄に走り寄って抱き付きながら泣いた。


「わ、私ちょっと、もう一度買い物に行って来る。オーケーになったら、ケータイカードで連絡して。じゃ、じゃあ、ごゆっくり……」

 ナンシーは気を利かせて部屋を出て行った。内心穏やかではなかった。いや、嫉妬で狂いそうだった。


『ナイフがあったら、美穂を刺し殺したい!』

 とさえ感じた。しかしそれでも耐えた。自分が凶行に及んだら、金雄が悲しむだろう、そう思うと何も出来ないのだ。それに自分には僅かだが確かな勝算がある。


『私のお腹の中には、金雄さんの子供が宿っている。十中八、九間違いないわ。私の勝ちよ!何があっても必ず金雄さんは私の所に戻って来る。私達の子供の顔を見に必ず帰って来る筈よ!』


 そう信じる事によって辛うじて、恐らく今直ぐにも情を交わすであろう二人を容認出来たのだった。

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