再会(8)
その頃、別荘に滞在していた浜岡に緊急の報告が入った。
「どうしたんだピアッサー、顔色が悪いようだが」
居間にある大型スクリーンで、愛人の東郷美千代と一緒に地下都市の警察部長ピアッサーの顔を見た浜岡は、様子のおかしいのに気が付いて話し掛けた。
「あのう、ええと、……東の森の人間狩りというのは本当の事なんですか?」
「な、何だと。そんな事を誰に聞いた!」
浜岡はムッとして怒鳴った。
「いやあ、お久し振りですねえ、浜岡先生」
「お、お前は野々宮! い、生きていたのか!」
「ははは、勿論ですよ。こちらのピアッサー君はなかなか物分りが良い。エレベーターの通路の横にある、私の隠れ家のドアを爆破すると警告して来たので、ご存じないと思いましたのでね、人間狩りのことを教えたんですよ。
そうしたら急に態度を変えて、私を客人扱いにしてくれたんです。それはそうと東の森の事もさることながら、もう一つ中央の森というのがあるんですよね。
これはピアッサー君に教えて貰ったんですが、最高機密中の機密、私も十分には知らなかったことでした。そこにロボット兵を作る大きな工場があるとはね。
ところでそこの倉庫に一万を超えるロボット兵が眠っている様ですが、エレベーターの故障で使い物にならなくて困っているんじゃないんですか?」
「ふん、別に困ってはいない。何とでもなる。近々別のエレベーターが完成するからね」
浜岡は平静を装った。しかし野々宮は自信を持って話を続けた。
「ふふふ、どうです、取引をしませんか。私にこの地下都市を下さい。約束してくれれば、ロボット兵を少しずつだが、提供しましょう」
「な、何だって! 野々宮さん! 約束が違うじゃないですか!」
ピアッサーは激怒した。
「バンッ! バンッ! バンッ!」
野々宮の隠し持っていた銃が弾丸を三発放った。三発とも心臓に命中して、ピアッサーは悲鳴さえ上げられずに倒れた。即座に浜岡が口を開いた。
「私からの命令だ! ピアッサーの遺体を片付けなさい! 今直ぐにだ!」
野々宮と交渉したかった浜岡は強い調子でそう指令を出した。まだまだ浜岡の存在はピアッサーの部下にとってさえも絶対的だったので、渋々ながらも彼の遺体を何人かで片付けた。
「融通の利かない男はこれだから困る。私もあんたとは付き合いが長い。いざとなったら、地下都市、ムーンシティを短時間に葬るだけの仕掛けがあること位分かっている。
しかしロボット兵が惜しくはないかな。ついこの間まで、あんたが世界征服を企んでいるとは思いもしなかったよ。ひょっとすればとは思っていたが、まさか本気とはね。もう一度言うが、その為にはロボット兵を地上に出す必要があるんじゃないのか?」
「一つ聞いておきたいのだが、ムーンシティを貰ってどうする積りだ?」
「あんたは地上の王になれば良い。私は地下都市の王になる。あんたはキングを地下都市の王にしたかったのかも知れないが、あの男は格闘技馬鹿だ。ははは、ああ、いや、失礼。
彼はここムーンシティの王になる事よりも格闘技の王になる道を選んだ。だとすれば三人の男がそれぞれ目指す王になれば、万事目出度し目出度しだという事さ」
浜岡は野々宮の目的が分かって少し安堵しながら話を続けた。
「……ふーん、ムーンシティの王になったとして、ロボット兵の工場と東の森の人間狩りの方はどうする積りだ」
「それは交渉次第だ。あんたがお望みとあれば、どっちも活動させますよ」
「余り条件が厳しいとバッサリという事になることは分かっているだろうな」
「さっきも言ったが、あんたとは付き合いが長い。よーく心得ている積りだよ」
「よし! ならば、手を打つことにしよう。先ずはエレベーターを復活させて貰いたい。それでロボット兵を地上に出して貰えないか。百体出すごとに、そちらの条件を飲む事にする」
「百体ごとでは条件が厳し過ぎますね。一番大きなエレベーターなら、一度にニ十体は楽に運べます。ニ十体毎にして頂きたい」
「ふふふ、足元を見おって。よし分かった、それで何時から始めてくれるのかね」
「エレベーターの復旧に最低でも半日は掛ります。今から始めて直り次第直ぐにという事でどうですか?」
「いいだろう。ただしロボット兵がきちんと動くかどうか点検の必要がある。金でも女でも、その後になるが良いか?」
「了解しましたよ。ただ最初は新鮮な食料が欲しいですね。ここのところ保存食ばかりでねえ。そこのところ宜しく頼みます」
「ああ、全て了解した」
浜岡と野々宮の交渉は成立した。画面のスイッチを切ると美千代が不服そうに言った。