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再会(3)

 結局、野口アナウンサーに色々聞いてみるしかなかったが、意外な答えが返って来た。

「野口さん、中で何がありましたか。首を絞められたとかしたんですか?」

「はははは、皆さん、彼を誤解していますよ。短い時間だったんであんまり詳しくは聞けなかったんですが、中では実に紳士でした。

 ナンシーという女の人がコーヒーを入れてくれたし、外に出たら皆さんの頭の上を越して行く事なんかも教えてくれたんです」

「えっ! さっきのあれを知ってたんですか?」

「はい、抽選会に遅れると不味いからって教えてくれました。それで、どうしても言う事を聞いてくれない場合に限って、実力行使もすると言っていました。

 勿論人の肉なんか食っていませんし、彼は一度も女性に暴行なんかしていないと言っていましたよ。調べれば分かるって言ってましたけど、彼が嘘を付いているとは思えないですね」

 野口の自信満々の態度に一応皆納得した。ただ恐怖心は依然として残っていて、金雄の個室の前からはほぼ全員が去って行った。


「済まん!」

 部屋に入ってから、金雄は小声で自分が吊し上げた男に気持ちだけだったが謝罪した。勿論一番ふてぶてしい態度をしていた男を吊し上げたのだが、暴行には違いない。

 金雄の良心が痛んだ。本当は直ぐにも謝りに行きたい所だが、自分が行くと尚更恐怖心が増してパニックになる恐れさえある。

 南国島における春野陽子の時の事でその辺は心得ていた。どんな風に接しても、恐怖の対象が目の前にいては、バイオレンスショックは簡単には収まらないのである。


『謝罪は手紙と金銭だけの方が良いかも知れないな』

 そっちの方はナンシーに頼む事にした。


『さて、ナンシーの置手紙でも見てみるか』

 テーブルの上にはナンシーが外して置いて行った、最新鋭のリストバンド型の携帯電話があった。部屋から三人一緒に出て行く直前に、ナンシーが耳打ちをして教えてくれたのである。


「抽選会に行っている間に、この画面を読んでおいて。声に出さずに、黙読してね」


 ナンシーは大胆にも部屋に入った時に、

「ああ、首が凝ってしょうがないわね」

 等と言って身分証を外したのである。


「金雄さんもこれから試合だから、外して置いた方が良いわね」

 そう言うと、二人の身分証を部屋の隅に置いた。如何にも自然な態度だったので、野口アナウンサーには全く疑われなかった。


『ええと、何々、必ず黙読して下さい、か。ああ、これは安川君からの報告だ。そうか、このリストバンド型の携帯電話は安川君からのプレゼントなんだ。これだったら浜岡に気付かれずに済むということだろうな。

 これを使って俺が眠っている間にナンシーが彼に美穂の事を頼んだんだな。それにしても素早いな。まだ何時間も経っていないぞ』


 そこには美穂に関する最新の情報も含まれていた。小笠原美穂はオーストラリアに向かったと、予想外の事が記されていたのである。


『ええっ! 美穂がオーストラリアに向かった!』

 金雄は一瞬の喜びと共に危険性をも感じた。


『浜岡の監視下でよくそんな事が出来たな。そうか、彼の影響力はどんどん低下しつつあるから出来たのかも知れない。事態はもう既にそこまで来ているんだろう』

 金雄は無論、桑山雄二が便宜を図ってくれたのだという事を知らない。


『何々、これは安川君の仲間が彼に日本の空港から送信したんだな。えーと、現在美穂さんを尾行中の男を尾行中! やっぱり監視されていたんだ! 

 飛行機には乗れなかったのでサンドシティ空港で待機している様にというメッセージになっている。今日の夕刻頃到着か。

 ふうむ、出迎えたいのは山々だが、迂闊な行動は出来ないし、試合もあるしな。ここは安川君達に任せるしかないだろう』


 メッセージを読み終えて間も無くナンシーが帰って来た。

「殆ど誰もいなくなってるわね。諦めて帰ったの?」

「ちょっと薬が効き過ぎたみたいだ……」

 金雄は報道関係者の一人を吊し上げた事をナンシーに知らせた。


「ふうん、でもほって置いた方が良いわね。ここでお金を渡したり謝罪したりすると、付け上がるわよ。報道関係者の人の中にはかなり柄の悪い連中もいるらしいから」

「そんなものなのか?」

「そうよ。だから相手が行動を起してからでも良いわよ。仮に訴えているんだったらもうとっくに警察が来ているわ。あいつ等だってきっと叩けばほこりの出る連中でしょうから、そう簡単に訴えたりはしないと思うわ。

 それより対戦相手の順序が決まったわよ。ルールの細かい点も聞いてきたわ。それをお話しする前に、その、メッセージは見てくれたわよね」

 ナンシーは急に声を潜めて話した。勿論金雄も声を潜めて受け答えをした。

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