表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/260

逆カルチャーショック(4)

「えっ、に、二十キロ! 往復で四十キロ歩いたの! 街の中ならともかく、大樹海の中は道が無いでしょう? 普通の道路の三倍以上の時間が掛るわよ。丸一日掛かって次の日になっちゃう」

「美穂さんは大袈裟なんですよ。慣れない内は半日くらい掛ったけど、慣れたら六、七時間ですよ」

「し、信じられない。お母さんと一緒の時という事は、普通の子で言えばまだ小学校の三、四年位だったんでしょう?」

「学校に通っていたら、まあそうなりますね。俺の荷物は軽かったから楽だったし、でも母さんには勝てなかったな。母さんは買い物して五時間で帰って来たんだから。俺一人の時は七時間位掛った」

「はぁーーーっ!」

 美穂はただただ驚いたが、ようやく金雄の強さの秘密が分かった様な気がした。


貴方あなたのお母さんってすごいわね。名前は何て言うの? 小森何?」

 急に金雄の顔が曇った。

「母さんの名前は、……分からない。ずっと幼い頃、俺は母さんの名前を呼んだ筈なんだけど、どうしても思い出せないんだ。何故か分からないけど名前は絶対に教えてくれなかった。

 それに最初から大樹海に住んでいた訳じゃないと思う。かすかに普通の家に住んでいた記憶がある。でもそれ以上の事は覚えていない」

「あああっ、何もかも型破りだわ! さっきから信じられない事ばっかり。……でも苗字が小森なら調べる方法があるわ。だけど変ねえ、貴方のお母さんは桁外けたはずれのパワーを持っている。

 恐らく世界のトップアスリートレベルよ。かなりの有名人の筈なんだけど、小森という名前は聞いた事が無いわね。おかしいわね……」

 美穂の考え込む様子を見て、また金雄の顔が曇った。


「じ、実は……」

 何かを言い掛けた時、

「パン! パン!」

 外から銃声が聞こえて来た。

「何、今の音! 銃声よね!」

 美穂は青くなった。それと同時に会員専用エリアがあわただしくなった。次々に廊下ろうかに出て様子をうかがっている人の声が聞こえてくる。


 部屋に閉じ篭っているのは危険だと感じた美穂と金雄も廊下に出てみる事にした。廊下は既に大勢の人でごった返している。騒ぎは一般客のレストランの方で起こって居る様である。

「裏口から逃げた方が良いぞ!」

 誰かがそう叫ぶと我も我もと裏口から逃げ出した。


「銃声が気になりますね。ここは逃げた方が良いかも知れない」

「そうね、相手が銃では太刀打出来ないわ」

 金雄と美穂とは互いに相手の身を案じて逃げ出す事にした。ただ自分達の後に西洋人のグループが居た事に金雄はちょっと驚いた。彼らが最後尾である。


「外国人の会員も居るんですか?」

 逃げる順番を待ちながら金雄は聞いた。

「いないと思うけど、外国の人を招待したんじゃないの?」

「ふうん、そうか。単純な事だったんだな」

 金雄が納得して間も無くの事だった。


「パーン!」

「ううっ!」

 銃声の後に人のうめき声が聞こえ、

「ドタッ!」

 倒れる音がすると、

「バタンッ!」

 会員専用のドアが乱暴に開けられ、ウェートレスを人質に取って、銃を持った男が入って来た。あの別室に連れて行かれた喫煙を注意されていたごつい男である。


「馬鹿野郎! 逃げるんじゃねえ。戸を閉めろ!」

「パンッ!」

 男は銃を天井に向けて撃って威嚇いかくし、裏口からの脱出を阻止した。逃げ出そうとしていた男の客は慌ててドアを閉めた。十数人程が取り残された。


「全員ゆっくりこっちへ歩いて来ーい!」

 銃の威力は絶大である。しかも半分抱きかかえる様にして、小柄なウェートレスを人質に取っている。下手な細工は出来ない。

「良し、全員この部屋に入れ!」

 どうやら男は一つの部屋に全員を人質に取って立て篭もる積りのようである。その時だった。西洋人にしては背の小さい子供の様にも見える男性が、ふっ、と消えた様に思えた。


「な、何だ?」

 何が起こったのか分らず、銃を持った男は目をしばたたかせていた。

「バンッ! カチャッ!」

「ウアーッ!」

 銃声と弾が無くなった音がした直後に、腹部から血を噴出して絶叫して倒れたのは、人質を取っていたごつい男の方である。どうやら自身の拳銃で腹部を撃ってしまった様である。


 ウェートレスはショックで失神した。側には一瞬消えた様に見えた背の小さい男性が立っていた。余りに素早い動きでハッキリとは分からなかったが、拳銃を自分に撃ってしまったのは彼の仕業らしかった。


「ス、スパルク!」

 美穂の他に何人かがそう叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ