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ユミ(23)

「ふう。聞き分けの無いお嬢さんですね。年令を聞いてもいいですか?」

「二、二十六です……」

 ユミは恥ずかしそうに答えた。幼さを指摘されると思ったからである。実際金雄はユミの幼児性を指摘した。


「俺より二つ位年上なんだ。でも十七、八の、いや、十五、六かな。その位の娘さんの様な行動ですよ。俺は貴方を嫌いにはなりたくない。ただ今のままだと嫌いになるかも知れないですよ」

「ええっ! 慎みが無いという事ですか?」

「まあそんな所です。俺の体が三つも四つもあれば良いのですが、生憎一つしかない。誰にもどうする事も出来ない事ってあるんですよ。

 俺とユミさんとまっさらで会えれば良かったけど、現実はそうではない。残念ですがお互いに諦めるしかないんです。分かりたくなくても、分からないといけない」

「ううううっ!」

 ユミは天を仰いで涙を堪えた。


「本当に申し訳ないが今の俺にとっては、貴方よりナンシーの方がずっと大切なんです。……それじゃあお休みなさい」

 金雄はユミに引導いんどうを渡した。後ろ髪引かれる思いはあったが、振り切らざるを得なかった。暫くして車の走り去る音がしたのはユミが帰って行ったのに違いなかった。その音を聞いて翔がどれ程安心したか、分かっていなかったのは恐らくユミ一人だけだったろう。


「ま、待っていたわよぉ。とにかく布団に入って来てぇ。ねえ、はやくぅ」

 ナンシーは甘ったるく金雄に声を掛けた。手真似で身分証を外す事を要求した。

「ああ、分かった。しかし、じゃじゃ馬さんの相手はなかなか大変でね、困ったものです。幾ら言っても中々諦めようとしないんですからねえ……」

 金雄は喋りながら、さりげなく身分証を外すと、部屋の隅のなるべく遠い所に置いた。何時ものように、盗聴されない為に耳元で囁き合う会話を始めた。


「チュッ! チュッ!」

 時折大きな音を出してキスをして、二人が情を交わしているかの様に装う事は忘れなかった。もっとも音はともかく、本当に本心からのキスでもあった。


「大変な事が分かったわよ」

「大変な事?」

「そう、さっきユミさんから手紙を渡されたんだけど、れいの安川君からの手紙だったの。それによると浜岡の悪事がばれかかっているのよ」

「ほう、じゃあムーンシティの事もか?」

「それはまだみたいだけど、あの、野々宮という男がね何もかもホームページで暴露したらしいわ。ただ、高度な暗号処理をしているらしくて解読に手間取っているようなのだけど」

「へえ、野々宮がね。ははは、あそこに閉じこもって餓死すると言っていたのにな」

 やや軽蔑的な言い方をした。


「やっぱりポーズだけだったのよ。これは私の勘なんだけど、浜岡の奴、今頃てんてこ舞をしているわよ。上手く行けば美穂さんも安全になるかも知れないわ」

「うーん、そうあって欲しいね。それで浜岡は一体何をしようと企んでいるんだ?」

「どうやら分かって来たんだけど彼の目指しているのは、馬鹿な話だけど世界を征服する事らしいわよ」

 ナンシーも軽蔑的な表情で言った。


「世界の征服? くだらない目的だ。愚かとしか言いようが無い」

「そうよね、がっかりだわ。少なくとも一度は神の様に信じ切ったのに、そんな事をする為に金雄さん達を酷い目に合わせるなんて、最低の男に過ぎなかったのよね」

「そうだな。それで、その他には何か無いか?」

「今の所はそれだけ。でも新しい事がどんどん分かって来ているらしいから、また手紙で知らせてくれるそうよ」

「いやあ、安川君には感謝、感謝、感謝だね」

「ふふふ、そうね。……ねえ、今日はあっちの方いいわよね」

「ああ、全然オッケーだよ。ナンシー、ますます好きになったよ」

「私も大好き、……」

 二人の身も心も一つになった夜だった。


 得意のロボットカーでボディガードと共に深夜に帰宅した浜岡敦博士は、ソファアに座って、赤ワインを飲みながらゆったりと寛ぐ東郷美千代を見て驚いた。


「な、なんだ、逃げなかったのか? 金が足りないというのなら、千億や二千億追加しても良いぞ。今からでも遅くは無い、早く逃げた方が良い」

「ふふふ、優しいのね」

「ああ、お前にだけはな。ひょっとすれば全世界を相手に一戦ひといくさすることになる。戦死する確率は七十パーセント位だろう。私はお前を死なせたくない。頼むから逃げてくれないか」

「私、退屈が嫌なの。貴方の女になって本当に楽しかった。貴方に敵対する男達を色仕掛けで堕落させるのって、スリル満点で最高に面白かったわ。

 命の危ないことも何度かあった。でも貴方の応援のお陰で、何時もギリギリの所で切り抜けて来たのよ。今度は戦争を始めるんでしょう?

 全世界を相手にね。勝っても負けても、人類の歴史に大きな足跡を残す事になるのよ。それってもの凄く価値のある事よ」

 美千代は浜岡の眼をじっと見つめながら言った。

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