ユミ(15)
「お気持ちは嬉しいのですが、俺には、そのう、非常に残念ですが、立場と言うものがあります。貴方は素敵です。しかしお付き合いは出来ません」
「な、何故ですか? 私が素敵だと思うのなら普通は付き合うでしょう?」
「理由は言えません。これ以上話しても無駄です。もし貴方と付き合う事が出来るとすれば、生まれ変わって再会するしかないと思います。
……あの、皆さんどうぞお引き取り下さい。今日のデモンストレーションは終りです。どうも本当に有り難う御座いました!」
ユミがなかなか引き下がりそうも無いので、代わりに金雄が終了の宣言をした。
ロボット研究サークルの連中は金雄に恨みと恐れの両方の感情を抱きながら、壊れたスパルタカスを皆で一緒に持って去って行った。
流星拳の面々は、金雄の呆れるほどの強さに感嘆しながらも、ユミに振られた翔の心情に同情を寄せつつ帰って行った。
「ユミさん、じゃあさよなら。ああそれからエムさん、明日は予定通り来て下さい。歓迎しますから。決して恨みに思っていませんから。それじゃあ失礼します」
「じゃあお言葉に甘えさせて頂きます。その節は宜しく」
金雄はちょっと気が重かったが、他に行く所も無さそうなので、少し危険だと思いながら寄らせて貰う事にした。少なくとも自分はユミを拒否したのだから、まるっきりの敵地だとは思わなかった。
複雑な心境はユミの父親の竜太だった。
「ユミ、お前翔さんを失ってもいいのか? エムさんは断ったのだぞ。理屈で言えば無謀だ。恋は理屈じゃないけど、それにしても何年も付き合って来た翔さんをあっさり振るというのは、かなり不味いんじゃないのか……。今ならまだ間に合うかも知れない。謝って縒りを戻した方が良いんじゃないのか? いや、そうした方が良いよ、絶対!」
「御免なさいお父さん。私、元々翔さんとは友達以上の感情を持った事が無いの。正直に言います。何度か抱かれました。逆にそれで分かったんです。本当に求めている人じゃないって」
ユミは真情を吐露し始めたのだった。
「でもなかなか言い出せなくって。そんな時にエムさんが現れました。直ぐピンと来ました。こういう人を待っていたんだなって分かったんです。
呆れるほど強いのにとっても優しい人。それがエムさんだった。でも何か訳があって私とは付き合えない。だからと言って翔さんと縒りを戻すというのはおかしいです。
彼とは良い友達のままでいたい。今の私の気持ちはそれだけです。それ以上の事は今は考えられません。それが本心ですから」
「良い友達でいたい、か。……翔さんはお前と結婚したがっている様に思えるがな。あいつは良い奴だぞ。それにエムさんにはナンシーさんがついている訳だし、何よりもエムさんはここにそう長くいる訳じゃねえんだからな。
格闘技世界選手権が終ったら日本に帰ってしまうんじゃないのかな? そうなんでしょうエムさん、えっと、違ってましたか?」
返事を躊躇っている金雄に代わってすかさずナンシーが答えた。
「はい、勿論そうです。直ぐ日本に帰って、いずれ近い内に私達は結婚します。もう事実上の夫婦なんですから」
ナンシーは強気に言い放った。しかし女の直感は鋭い。
「ふふふふ、ナンシーさん、エムさんを押し退けて無理に言っている様な感じよ。百パーセント本当という事じゃあ無さそうね。
エムさんを何処まででも追い掛けて行けば、ひょっとすると私にもチャンスがあるかも知れないわ。いいえ、きっとチャンスは来ると思う」
「な、何を言うの! 私達は愛し合っているのよ。危険な目に何度もあったけど一緒に協力して潜り抜けて来たのよ。あ、あんたなんかの出る幕じゃないわ!」
ナンシーは最後は殆ど叫んでいた。それでもユミはひるまない。
「分かったわ、ナンシーさん。暫く様子を見てそれから動く事にするわね。お二人がめでたく結婚という事になったら、私も諦めるけど、それまでは諦めませんから。その積りでいて下さいね」
ユミの言葉はまるで挑戦状の様にナンシーに叩き付けられた。女同士の激しいやり取りに竜太も金雄もお手上げだった。
ただその後は全てが淡々と進められた。夕食も一緒に食べた。酷く静かだったが無難にやり過ごした。その夜はナンシーが激しく金雄を求めた。
声が洩れる事をむしろ望んでいたのだ。ユミに二人の熱々振りを聞かせようという魂胆である。しかし熱烈なキスの真っ最中に外の様子がおかしい事に気が付いた。