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ユミ(14)

『えええっ! なかなかやるわね。今まで私が見て来たロボットとは桁が違うわ。だ、大丈夫かしら、金雄さん……』

 ナンシーは不安を感じ始めたが、そんな事にはお構いも無く、いよいよ試合開始である。試合時間は五分。レフリーはやはり竜太が最年長ということで勤める事になった。


「じゃあそろそろ始めるぞ。互いに礼! 始め!」

 スパルタカスはちゃんと礼をしてから構えた。構えも格闘家らしい構えで中々様になっている。

「へえーっ! 構えも立派だけど、何とも礼儀正しいロボットだな。こりゃあロボットに教えられたな!」

 多くの者が礼までするロボットに感心したその瞬間だった。


「クオリャーーーッ!」

 金雄の凄まじい飛び蹴りが炸裂さくれつし、スパルタカスの首が吹き飛んでしまった。

「ドッターーーンッ!」

 首を失ったスパルタカスはゆっくりと倒れた。倒れた後も体が動いている様は、痙攣けいれんして体をヒクヒクさせている様な、生々しい印象を与えた。


 首はリングの外に飛んで行ったが、金雄はちゃんと人のいない所に飛ばしたのである。辺りは静まり返ってしまった。


 レフリーの竜太にも状況が何だか理解できない状態だった。夢を見ている様な気分だった。暫くしてはっと我に返り、

「エ、エ、エムの勝ち!」

 やっとそう宣言した。


 それからロボット研究サークルの女性達の悲鳴が上がった。


「キャーーーッ!」

 四人とも慌てふためいてリングに駆け上がり、壊れ具合のチェックを開始した。翔はリング下に落ちたスパルタカスの首を拾ってサークルの一人に手渡した。


 ロボットであるから血は出なかったが種々のオイルを使っているので、それが洩れて少ないけれど血が噴出した様にも見える。何だか残忍な感じがした。


『もうちょっと手加減してくれても良かったのに……』

 エムの手前誰も言いはしなかったが多くの者がそんな印象を持った。


 リングから金雄は降りて来て、

「ちょっとやり過ぎたか? もう少し頑丈だと思ったんだけどね。こんなにもろいんじゃねえ」

 ナンシーにそう言うと、着替えをしに行った。哀れなのはユミである。金雄が翔と戦っていた時、本当は金雄は翔が大怪我をしない様に手加減していた事を彼女は知らなかった。今は手加減無しだったのでこんな結果になったのだ。


 だがそのユミはとんでもない事を言い出した。

「……私は、私は、私は強い人が好き。エムさんが好きになった。翔ちゃん御免!」

「えーーーっ!」

 何人かが叫んだ。ユミの爆弾発言で大騒ぎしている最中に、金雄は何も知らずに着替えをして戻って来たのである。


「あれ? どうかしたのか?」

 金雄は何があったのか分からず、ナンシーに聞いた。ナンシーはそれには答えず、かなり激しい口調でユミを非難した。


「貴方、何言ってるの! 非常識というか馬鹿馬鹿しいと言うか、とにかく話にならないわ! 金雄さんが貴方なんか相手にする訳無いでしょう!」

「なんと言われても好きなものは好きだわ。エムさんがどう思うかはエムさんに聞いてみなければ分からないでしょう?」

「だったら、き、聞いてみれば良い! さあどうぞ! 金雄さん、ユミさんが貴方に話があるそうよ」

 憤慨しながら話を振られて、金雄はちょっと困ったが、とにかく聞いてみる事にした。


「ユミさん、話って何でしょうか?」

「あ、あのう、エムさんは私をどう思いますか?」

「えっ、ど、どう思うかと言われても、特に何とも。ちょっと気の強い人だなとは思いますが……」

「私が嫌いじゃないんですね?」

「別に好きとか嫌いとかじゃ。会ったばかりだし」

「私はエムさんが、本当は最初から大好きだった。でも私には翔ちゃんがいる。物凄く迷った。エムさんが大した事が無ければ諦められた。それで車をめちゃくちゃ飛ばしたり、色々無理な事を言って、困らせました。御免なさい」

 ユミは頭を下げて謝った。


「いや、その、謝る事は無いですよ」

「それであのう、私とお付き合いして頂けませんか。ナンシーさんがいることは承知していますけど、どうにも自分の気持ちを抑える事が出来ません。お願いします、私と付き合って下さい」

 もう一度ユミは深々と頭を下げた。正直に言えば金雄は嬉しくもあったが困りもした。満座の前でこれだけはっきり自分の恋心を明言出来る人間は、世界広しと言えども先ずは彼女位のものだろう。


 その意味では金雄の心を揺り動かすだけの魅力はあった。ちょっと惜しい気がした。しかし自分はフリーではない。相変わらず浜岡の手の中で踊らされている操り人形に過ぎないのだ。

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