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ユミ(13)

 見掛けない何人かの若い男女と共にやって来たのは、紛れも無くロボットだった。


「キュッ、キュッ、キュッ、キュッ、……」


 大道で使われているロボットに比べると足取りは軽やかである。全体的にスリムで精悍な感じを受ける。白と黒の二色だけで塗り分けられているが、人間の体形に極めて近い。


「ご紹介します。サンドシティ大学の私の後輩に当るのだけど、ロボット研究サークルの方々。サークルと言っても大企業と提携しているハイレベルなものですわ。

 代表者はトーマス・ウィルソンさん。その後ろの女性はヘレンさん、手前の男性が、ロバートさん、その横の女性がジュディさんです。

 それでこちらがテレビ等で大々的に取り上げられた格闘家のエムさん、ナンシーさん、それから私の父、こちらが流星拳の方々で、安藤翔さん、……」


 ユミはざっと紹介が終ると、その後は英語で話し始めたのでナンシーの出番である。

「な、何て言っているんだ?」

「……、成る程、そういうことなのね。今、ユミさんが日本語でも説明するわ」

「はい、エムさんにもその他の人にも了承して欲しいのですけど、このロボットの能力を、翔ちゃんの二十五パーセント増しにしてあるんです。体の大きさから判断してその位にして丁度釣合うと思います」

「おいおい、こりゃ一体どういうことなんだ。どうもピンと来ないんだがな」

 竜太には納得がいかなかった。その他にも納得行かない連中がかなりいた。


 しかし金雄は、

「要するに俺がこのロボットとリングの上で戦えば良いんだね。安藤さんと俺との体重差を考えに入れて一種のハンディを付ける訳だ」

 と、簡潔に言った。

「そうよ、金雄さんは物分りが良くて好きですわ」

「はははは、それはそれは、光栄です」

 金雄は変な褒められ方をして苦笑した。しかし『好き』と言う言葉は彼氏や彼女がいる場合には禁句である。ナンシーはちょっとムッとした。


「そ、それじゃあ早いとこ片付けましょうよ、金雄さん。ああ、それからそのロボットの体重はどうなのかしら? それと目一杯能力を上げたらどの位のものなのかしら? 具体的に説明してくれないと公正を欠くと思いますけど」

 ユミの言葉にムカついたナンシーはやや挑発的な言い方をした。


「体重は約九十キロよ。ほぼ金雄さんと同じになるように調節してあるわ。と言うよりか、ぎりぎりに抑えてこの位なのよ。これ以上は下げられないわ。まあ能力もぎりぎりに近いわね」

「そう、じゃあ本来ならもう少し能力を下げるべきじゃないのかしら。金雄さんの現在の体重は86キロよ。ちょっと体調を崩して寝込んだ事があって、85キロにまで落ちてたの。少し回復したけどその点はどうするのかしら?」

「ええと、それは、直ぐに能力を下げるのはちょっと時間が掛って……」

 ユミは困った。現在の状態で最高の能力を発揮する様に調整してあるので、能力を少し下げた場合、上手く動かなくなる恐れがあるのだ。


「ああ、ナンシー別に俺は構わないよ。要するに俺が勝てば良いのだから。俺は必ず勝つから安心していいよ」

「ま、まあ、金雄さんが良いのなら、それで私は構いませんけど……」

 ナンシーは渋々承知した。

「た、大した自信だわね。そういうことは戦って勝ってから言って頂戴!」

 ユミは相当厳しい目で金雄を睨み付けた。しかし直ぐ柔和な笑顔に戻って、

「ふふっ、あの、一つだけ言っておきます。このロボットには人間の様な急所が有りませんから、エムさんはこのロボット、スパルタカスという名前なんですけど、どんな攻撃をしても宜しいですわ。禁じ技は御座いません。

 でもスパルタカスにはちゃんと禁じ技を教えてありますから、心配は要りませんわ。万一、禁じ技を偶然であっても使ったと見做みなされた場合にはスパルタカスの負けで宜しいですわよ」


 スパルタカスが勝つ事に絶対の自信を持ってハンディを付けている事を匂わせた。金雄はニヤリと笑って、

「じゃあ、どんな攻撃をしてもいい訳ですね?」

 そう念を押した。

「勿論ですとも!」

 ユミは自信満々である。


 いよいよ試合が始まる事になった。金雄はリングに普通に上がって行った。しかしスパルタカスは先ずリングサイドに飛び上がり、それからジャンプして一気にロープを飛び越しリング内に入った。


「オオーーーッ!」


 場内に驚きが充満した。これ程のジャンプ力やそれを軽々とやってのけるロボットを初めて見たのである。リングの外で飛び上がる時も、ロープを膝を曲げて飛び越す時も、そしてリング内に着地する時も、いささかもぐら付かなかったのだ。

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