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ユミ(3)

『おかしなナンシーだな。男の俺が言うのもあれだけど、体を許すのが早過ぎたかな?』

 少し後悔して金雄も素っ裸になると、腰にタオルを巻いて浴室に入って行った。まだ陰部をまともに見られるのには少し抵抗がある。


 金雄が浴室のドアを閉めるや否やナンシーの態度は一変した。彼女もタオルを腰に巻いて、指を口にあて、静かにする様に合図した。ぬるめのお湯を入れたバスタブに金雄と一緒に入って耳元で囁き始めたのである。


「御免なさい変な事をして。私達を監視する方法が大体分かったのよ。余り大きな声は出さないでね」

「ええっ! おっと、小さな声で言うんだよな。じゃあ俺も耳元で言うから。一体どういう事なんだ?」

「私にはネットの友人が沢山いるのよ。でも浜岡のくれたパソコンじゃ信用出来なくて、今日外のネットカフェとかでサンドシティに住む友人と連絡を取って、会って話をして来たの」

「へえ、それで?」

 金雄は興味深々で聞いた。


「結構大きなデパートの地下三階で会ったのよ。そこに買い物をしに行った振りをしてね。実際に買い物もして来たんだけど、盗聴関係のメカに詳しい友人でね、その場所だと、直接は電波が外に漏れないんですって」

「という事は?」

「私と彼とのチャットのやり取りで、一番怪しいのは身分証じゃないかって話になっていたのよ。勿論ホテルの部屋とかにはカメラも隠してあったと思うんだけど、外での出来事も知られているのよね」

「うん、確かにそうだ」

「でも一度だけ金雄さんを見失ったって言ってたのよ、浜岡が」

「一度だけ?」

「そう。ムーンシティで金雄さんがビエンターやガナッシュ達と戦っていた時の事よ。あの時金雄さん、身分証を着けていなかったと思うんだけど、どうかしら?」

「そういえば、バックに入れてたな」

 金雄にも徐々に謎がほぐれて行くのが分かった。


「そうでしょう? やっぱり思った通りだわ。……本当に申し訳無いんだけど、金雄さんここで私とエッチしてくれないかしら?」

「えっ? まあ、しても良いけど?」

「あんまり何もしないと、かえって浜岡に疑われるわ。ああ、その前にちょっと言っておくと、ネットの友人に調べて貰ったのよ。ざっとの所だけど相当高性能の盗聴器らしいわ。……じゃあお願いするわね、あああ、金雄さん!」

 二人はわざと大きな声を出して情を交わしたのだった。


 その後で寝た振りをして今後の事について、身分証から離れて徹底的に話し合うことにした。ベットの中で互いに耳打ちをして話し合うことになった。

 ちょっとくすぐったくて、笑い声を挙げないか心配だったが、その時は寝言で誤魔化す事にして、早速話し合いを始めたのである。


「ところでこの部屋は大丈夫だろうね。盗聴器とか隠しカメラとかは」

「幾ら浜岡でも、全てのホテルの全ての部屋にカメラとかを仕掛ける事は不可能だわ。それでもタワーホテルじゃ不安だから、ホテルを変える為に大芝居を打ったのよ」

「大芝居?」

「そう。エムを見に野次馬達が集まって来たことに便乗びんじょうしたのよ。私に質問して来たのは皆彼の仲間なのよ」

「へえーっ! よくそんなに協力してくれたもんだな、随分大変だったと思うけど」

「えへへへ、ちょっと言い難いんだけど、ネットを通じて私のファンクラブがあるのよね、世界中に。その中でも特に熱烈なファンになると、頼めば何でもしてくれるのよ。怖い位にね」

「ふーん、物好きな奴らもいるもんだな」

「でも彼等を馬鹿には出来ないわ。お陰でホテルを如何にも自然に変える事が出来たんですからね」

「確かに感謝しないといけないね。……俺が真っ先に何を望んでいるか分かると思うけど、小笠原美穂、彼女を安全な方法で逃がすにはどうすればいいのかな?」

 金雄の言葉にナンシーは失望して言った。


「……金雄さん矛盾している」

「な、何が?」

「どうして美穂さんの為に命を懸けるの? 見捨てて逃げるのが貴方の主義だった筈よ。おかしいわよ」

「ううっ、それは、その……」

 金雄は返事に窮した。美穂の為だったら、自分の命を捨てても良いという態度を取って来た事実がある。


「要するに、私の場合は見捨てるけど、美穂さんの場合は見捨てないのよね」

「そ、それは、そのう、……」

 金雄は更に返事に窮した。本当はナンシーだって見捨てる積りはないのだが、昨日の今日で断言した事をひっくり返す訳にはいかない。男のプライドだった。


「で、でも仕方ないわね。キャリアが違うんだし……」

 ナンシーは妥協した。これ以上追及したら金雄に嫌われかねないからである。

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