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テレビ(9)

「ええ、勿論ですよ」

 司会者があっさり否定すると、

「やっぱり化け物だわ」

 岩井はかぶとを脱いだ。しかし、

「ソレデモボクノホウガ、モットハヤク、ウゴキマス」

 スパルクは強気に言い放った。


「さーて、いよいよ極秘映像をお見せ致しましょう。ここでは非常に貴重な大道ロボット屋を荒らし回っていた頃のエムの物凄い姿をご覧に入れます。ここからはモザイク無しで行きます。エムの素顔をとくと御覧あれ!」

 司会者が手で合図するとサッと画面が切り替わり、如何にも素人が撮ったと分かる映像になった。


「何時の間に撮ったんだ? 俺も知らないぞ!」

 金雄も驚いて身を乗り出した。司会者の言う通り今度は顔にモザイクは無く素顔だった。その顔はまだ野生味の残っている非常に厳しいものだった。


 画像にかぶせて、司会者がちょっとスパルクに気を使って説明を入れる。

「何年か前の映像なので、ロボットの性能が今よりちょっと落ちます。そこの所を計算に入れて御覧下さい」

「ウリャリャリャーーーッ!」

 最近の金雄とは明らかに異質な声を出してゴングの合図と共にロボットに飛び掛って行った。


「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドンッ!」

 瞬時に何発もパンチや蹴りが入る。ロボットがばったり倒れてしまうまでの時間は三秒程である。その後も次々にエムとロボットとの対戦を見せたが、どれもこれも五秒とは掛っていない。スタジオ内はシーンと静まり返った。


 しかしスパルクだけが、

「ハハハハ、ボクノホンキニハ、エムハツイテコレマセンヨ。ダカラボクガカチマス!」

 と、相変わらず強気である。その後和気藹々の雰囲気でスパルクの健闘を祈り、全員と握手して番組は終了した。予告とはまるで違う内容のままであった。


 テレビを見終わった二人は、何とも言えない妙な気分になった。

「多分抗議しても、一部の担当者の処分で終わるという事なんだろうね。しかしこのままでは腹の虫が収まらないね。かといって今暴力事件なんか起こしたら、大会には出られなくなるし。

 ナンシー、ネットの掲示板にでも抗議文を載せてくれないか。予告編がひど過ぎるという事と、本編とまるで違うという事をね」

 無駄だと思いながらも、そう言わずにはいられなかった。


「分かった。エムの名前で書いておくわ。でもキングの扱いは小さかったわね。二十秒位で優勝候補には挙げてなかった」

「ああ、ただあの岩井という男はさすがに元チャンピオンだけの事はある。全然知らないのにたったあれだけ見てダークホースになるかも知れないと言っていた。それと天空会館の原田源次郎という男には見覚えがある」

「ええっ! 知ってるの?」

「うん、俺が街外れの空き家に住んでいた時、襲って来た天空会館の内の一人だった。何度も見た訳ではないけど、真っ先に逃げ出したので印象に残っている。

 俺は後を追いかけて天空会館の本部に行ったんだ。そしたら彼はいなくて天の川光太郎が立っていた。その後の事は前に話した通りだけど、俺は彼を褒めた記憶がある。危ういと思ったら逃げるのも兵法の初歩だってね」

「本当にそう思う?」

「当然だと思っているよ。仲間を見捨てて逃げたと非難する者もあるだろうが、あの時の状況からすると勝ち目が無い。勝ち目の無い戦はするべきではない」

 金雄は確信を持って言った。


「も、もし、私と金雄さんと一緒に誰かと戦って、勝ち目が無かったら、私を捨てて逃げるの?」

「さっきも言った様に勝ち目が無いと思ったらそもそも戦わない。ただ予想外に相手が強い場合もあるだろう。その時は一緒に逃げる」

「私が怪我をして動けなかったら? 一人でなら逃げられるけど、私と一緒では逃げられないとすれば?」

「……、見捨てて逃げる」

 金雄は少し躊躇ったが信念に従って答えた。


「えっ! そ、そうなんだ……」

「悪いが俺はそういう男だ。ただ一言いっておくと、立場が逆だったらどうする? 俺が怪我をして動けなかったら? 逃げずに一緒に死ぬのか?」

「当然一緒に死ぬわ」

「それは困る。俺は誰とも心中する気は無い。それが俺が大樹海の中で野生に学んだ知恵だ。生き延びられる限り、必ず誰かが生き延びて子孫を残していく。ナンシーにも是非そうして貰いたい」

「嫌だ、金雄さんと一緒じゃなきゃ嫌だ。一人で生きるなんて耐えられない」

「ふうむ、もうこの話は止めにしよう。ナンシーならきっと俺の言葉を理解出来ると信じているよ」

「嫌だ、理解はしない! 一緒に死ぬんだ!」

 大分酔いが回って来たのだろう。ナンシーは妙に絡んだ。


「さて今日はお開きにするぞ。ナンシー寝ろよ」

 金雄はさっさと自分の部屋に入って寝てしまった。

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