テレビ(3)
金雄の勘は凡そ当たっていた。シェフ並みの腕を持つ浜岡の愛人の作った朝食に舌鼓を打ちながら、得意げに己の野望について話をしていた。
「最初にエムの噂を聞いた時には、何とか噂を消そうと思ったんだが、そのうち噂を最大限に利用してやろうと思ったのさ」
「噂を利用する? それは天空会館の恥なんでしょう?」
美千代は自分も料理を食べながら浜岡の話に聞き入って、時々こんな風に疑問を呈した。
「そう、普通ならそう考えるだろう。噂が直ぐ消えるものならそうしていた。しかしその噂を流しているのは天空会館の元中堅クラスの連中で、かなりの数に登る。一人、二人の始末はしたが、とても全員は無理だ。
そこで今度は逆にエムの噂をむしろ広めて、世界大会に引っ張り出す。これが弱くては話にならん。こんな弱い男に天空会館が負けたとあっては恥の上塗りになる。
そこで目を見張るほど強くなければと考えたのさ。それ程強い男が、唯一人天空会館の者に限って負けたとすればどうなる?」
「さすがは天空会館、という事になりますわね」
「そうだろう? エムに色々便宜を図って来たのはその為さ。奴には強くなって貰わなければならなかったのさ、絶対にね」
「でも、天空会館も凄いけど、エムもなかなかやるって思われませんか?」
「ふふふふ、そこだよ。そこでナンシーに……」
浜岡は愛人の美千代の耳元で何やら囁いた。
「うふふふ、悪い人ねえ、そこまでするなんて。……でも、あれね、ナンシーさんてかなり綺麗な子だけど、貴方のお気に入りなの?」
「おいおい、妬いているのか? ああいう筋肉女はそもそも俺の好みじゃない。エムにあてがって丁度いいのさ。お前は春川陽子の面接もした事があったな」
「ええ、とってもいい子だと思ったんだけど、まさかあそこまで格闘技に免疫が無いとは思わなかったわ。あれじゃあ使い物にならないものね。何とかエムとキスまで持っていけたけど、期待外れだったわ」
「そこで思案の挙句ナンシーにしたんだが、何しろエムを激しく嫌っていたからな、冷や冷やものだったが、どうやら上手く行ったようだ」
「そうねえ、結局格闘家同士だから分かり合えたんでしょうね」
浜岡がナンシーに感心が無さそうなので、美千代は安心して相槌を打った。
「天は俺に味方しているよ。今度の大会で天空会館の名声が更に上がれば、世界中の警察や軍隊の格闘技の指導者として、招かれるチャンスはますます多くなる。
今だってかなりのものだが、遥かに上回る事になる。後数年もすれば世界中の警察や軍隊に対する発言力が大幅に増す」
「それでどうなるの?」
「知らぬうちに警察も軍隊も我が手中に収まるのさ。逆らう者は勿論皆殺しだ。しかしそれだけではない。私の可愛い子供達、私の息の掛かった会社のロボット達が、ある日を境に一斉に蜂起する。
最新のロボットには全てそれ用のチップが付け加えられているのだ。いまや世界中の警備にロボットは大活躍しているし、その他の人型ロボットをいれれば、遂に一億体を突破した。
まだ反乱チップは一千万体位にしか付いていないが、三年以内に五千万体を突破するだろう。その時、私は世界に宣言するのだ。私に従えと!」
浜岡はかなり強い口調で言った。
「もしもどこかの国の軍隊が攻めて来たら?」
「そもそも殆どの軍隊は私が抑えているが、中には反乱を起こすものもあるだろう。受けて立つ。世界最強のロボット軍団がお相手をする事になる」
「大量破壊兵器で来たら?」
「ロボットにはガスも細菌兵器も効かない」
「核兵器なら?」
「その為にムーンシティがある。あそこはそもそもが核シェルターなのだからね。しかもそこに世界の好色で狩猟の好きな金持ち達を抑える事になっている。
金の力は核よりも強いと思うけどね。今あそこを急ピッチで整備しているのはその日の為なのさ。もしも全世界を相手に戦うことになって、籠城する事になったとしても何年でも何十年でも持ち堪えられる様にね」
「凄い、完璧だわ。きっと上手く行く!」
「はははは、だが私は用心深い男でね、今言った場合とは違う場合も色々想定して研究しているのさ。目標は三年後。たとえ一つ二つ失敗したとしても、必ず世界を手に入れられるようにね」
美千代はうっとりと浜岡を眺めていた。
『この男ならきっとやる!』
何よりもその用心深さに惚れ込んでいた。