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テレビ(1)

 ナンシーが金雄の看護と総合格闘技の世界大会の出場者の研究に余念が無い時、届け物があった。送り主は浜岡だった。


「浜岡、先生から何かしら?」

 小さく呟きながら、ささやかな包みだったがとにかく開けてみると、手紙と幾分大きめのチューブに入った傷薬が入っていた。


 ナンシー君、この間は急ぎの用事があった為とはいえ、電話では少々失礼した。お詫びと言っては何だが、傷に良く効く特効薬を送る。

 エムの傷に塗ってくれたまえ。大抵の傷は数日で完治する筈だ。世界大会では万全の態勢で望むよう期待する。ではこれにて。

                               浜岡 敦


 プリンターの印字なので本当に浜岡が書いたのかどうか分からないが、薬は本物のようである。

『浜岡が私に詫びなんか入れる筈が無い。……エムが、金雄さんが病気や怪我では都合が悪いのじゃないかしら?』

 はっきりしないのだが浜岡が何をしようとしているのか、ナンシーにもおぼろげながら分かり始めて来ていた。


『金雄さんが優勝してそれでお仕舞いという事は絶対に無い筈。何かをするのよね。その何かが分からない。一体何をするのかしら?

 でもその前に何とかしなくては。悔しいけど今は有難く薬を使わせて貰うわ。何をするにしても、金雄さんが健康を回復するのが最優先よね』

 ナンシーは送られて来た塗り薬を金雄の傷口にせっせと塗った。さすがに特効薬だけあって、なかなか治らなかった傷口が数日でほぼ完治した。


 落ちていた食欲も回復し、クリスマスイブの前日から、トレーニングを再開した。大会が近いのでイブの夜であっても特別な事は何も無かったが、夕食後、部屋のデスクで向き合ってコーヒーをすすっている時、重大な発表がナンシーの口から語られた。


「対戦相手の変更があったわ。前にも言ったと思うけど、大晦日の日には、A、Bの二つのグループに分かれて八人ずつでリーグ戦を行うのよ。

 金雄さんはAグループよ。問題なのはBグループの一人が、今頃になって一身上の都合とかで出場辞退して、別の人を推薦したことよ」

「へえ、どういう事なんだろうね。急病か何かか?」

 常識的には有り得ない事なので、興味を感じた。


「詳しい事は分からないけど、自分よりもっと適した人が居るという事らしいわ。……その推薦された人の名前は、キング・ウィリアムス。

 あのキングが出場してくるのよ、地下格闘場で五百連勝したあの男がね。年齢は三十六才。想像していたよりずっと若いわ。……手ごわそうよ」

 ナンシーは金雄を心配そうに見た。


「えええっ! あの、キングが出場するのか。……相手にとって不足は無い! 正直勝てるかどうか分からないけど。ところで決勝リーグに出る為にはAグループで二位以内に入ればいいんだよね」

「そうよ。リーグ戦といっても変則リーグ戦で一位、二位が決定すれば残りの試合は省略されるのよ。だから場合によっては次の日の決勝リーグには一度も対戦した事のない相手同士が残る事もありうるわ。

 組み合わせを見るとそうなる確率が高いわね。無駄な消化試合はしないと言うよりも、次の日になるべく疲れを残さない様にする為にそうするのだと思うわ」

「なるほど、それは有難い配慮だ」

 金雄は強制的に参加させられるので、選手の健康面に配慮がある事は不幸中の幸いだと思った。


「ただ、もう一つ、物凄く気になる事があるのよ」

「光速のスパルクの事か?」

「それもあるんだけど、これは昨夜発表されたばかりなんだけど、今回の大会で優勝した者は、最後にまぼろしの強者と対戦する義務がある、ということになったのよ。こんな事は今まで一度も無かったし、幻の強者って、誰の事だか全然分からないわ。

 私は最初、キングが幻の強者だと想像していたんだけど、今朝の発表で違うという事が分かったし。どうなっているんだか……」

 ナンシーは不安げな表情を見せた。背後に浜岡の影が見え隠れしている様な気がしてならないからである。


「うーん、それは俺にも全然見当が付かないな。何にせよ先ずは予選突破が重要だ。当然キングは予選突破して来るだろうし、対戦相手一人一人について詳しく教えてくれないか」

「分かったわ。Aグループで最も手強そうなのは、何と言っても光速のスパルクね。彼については知っていると思うけど、とにかくスピードよね。

 そのスピードを封じる事が出来れば勝機があると思う。でも彼とは最終戦で当る事になるから、全勝で行けばぶつからないと思うけど。仮に全勝でなくても、その前に一位か二位が決定すればやっぱり当らない事になるわ」

「うん、そうか。じゃあ、次に手強いのは誰なんだ?」

 意外なほどあっさり言った。

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