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脱出(3)

「一体どうする積りなの?」

「つまりね、梯子段に下がっているズボンの両端を両手で同時に掴むのさ。そうすれば落ちないだろう?」

「ええ、確かにそうね。でもその後は?」

「思いっきり両手で引けば勢いで上にあがれる。上がり難かったら足を壁にこすらせてでも上がれば良い。手さえ離さなければ落ちる事はないからね。上がったら、そこで鉄製の横棒に掴まると言う訳さ」

「あ、危ないわ。失敗したら、下に落ちてしまう」

「その時は壁を蹴ってまたここに戻って来るまでさ。それっ!」

 余り長く話していると、ナンシーの精神に悪影響があると思って直ぐに実行した。金雄の素晴しいジャンプ力は簡単にそれを成功させうるものだった。


「えいっ!」

 気合を入れて掴んでいたロープをぐいっと引くと、足など全く使うことも無く、ものの見事に金雄の体は一メートル近く飛び上がって、楽に鉄製の横棒に掴まる事が出来た。


 それから梯子の上でズボン製のロープの重石に使っていた金雄のバンドを解き、今度は梯子段の横棒にズボンの先端部分と共にわえた。

 均等に垂らすのではなく、一方の端を結わえて垂らしてあるので、極太ロープは二メートル近くの長さになる。それならばナンシーでも十分にジャンプして届く。


「ナンシー、これにジャンプして飛び付け! 踏み台を使えば楽に届くはずだ。後は自力で登って来い!」

 そう叫んだ。しかしナンシーは既にかなり血の滲み出している死体の踏み台に、登る事がなかなか出来なかった。


「ナンシー、上がる前に、十分祈りを捧げると良い。待てば待つほど辛くなるぞ!」

 金雄にそう言われると、一分余りも両手を合わせて必死になって祈りを捧げてから、かなり辛そうに遺体の上に乗り、それでも思いっきりジャンプした。


 気持ちが萎縮いしゅくしているせいか、危うくバランスを崩しそうになったが何とか極太ロープの端に掴まると、本来の力を発揮して、あっという間に梯子に辿り着いた。


「ふう、やったな。もう一度祈って行こう」

 上段の方に居る金雄が右手で梯子を握りながら片手だけで祈ると、ナンシーも同じ様に片手で祈った。


 梯子に上手く辿り着けて助かる可能性が高くなると、ナンシーの気持ちにも少しゆとりが出て来て、落ち着いた様子なので、自分で取ろうと思っていたロープをナンシーに頼む事にした。


「さあて、ナンシーそのバンドとズボンのロープを外してくれないか?」

「ええ、いいわよ。でもここで穿くの?」

「いや、上の方にせり出しがあると言っていたよね」

「ええ、出口の所にある筈よ。ああ、そこで穿くのね」

「そう、梯子の上じゃあ危険だし、このままの格好でもし外に出たら、何を言われるか分からないからね」

「うふふふ、気になるの?」

「ま、まあ、ちょっとね」

「分かったわ、うーん、随分きつく縛ったわね。それ、よいしょっと、ああ、外れたわよ」

「うん、じゃあ、こっちに渡してくれ」

「はい」

 受け取ったバンド付きのズボン製の極太ロープを、金雄は体に巻き付けて梯子を登り始めた。ナンシーの疲労の度合いを考えて、ゆっくり登った。


 時々休んでは話をしながら十五分ほどで、ほぼ登りきった。幸い途中で梯子は切れてはいなかった。ただ辺りはかなり暗い。

 エレベーターの屋根が開いていてそこから光が漏れてくるのと、所々にある小さな電球の明かりだけが頼りである。それでも僅かながら出口から外の光が漏れてくるので何とかせり出しが見えていた。


 いよいよすっかり登り切って、

「成る程せり出しがあるね。この上なら何とか立てそうだ。じゃあズボンを穿こうか」

 金雄はせり出しの上に立って、バンドを全部外し、絡み合わされ、しっかり結わえた二人のズボンを少し時間を掛けて何とか解き、ナンシーに彼女のものを渡し、残った自分の物を下に落ちない様に慎重に穿いた。二人のズボンは相当によれよれで、それはそれで何か聞かれそうだった。


「ところで出口の前へどうやって行くんだ? そこまではせり出しが無いぞ」

 確かに幅八十センチほどのせり出しは出口に向かって右側にしかなく、左側にもせり出しはあるが二十センチほどしかない。そこは恐らく手摺が頼りなのだろう。右側には簡単な手摺が、左側には頑丈そうな太いパイプの手摺があった。


 よく見ると左側の出口に近いところに、鉄製の幅一メートル位の板が跳ね上げた形になっている。

「ああ、そうか、あの鉄板を降ろせば良いんだ。下の方に蝶つがいが付いているし、先の方にかぎが付いていて、右側の方の出っ張りにぴしゃっとはまる感じだ。それじゃあ降ろしますか」

 左に飛んで直ぐに頑丈そうな手摺に掴まった。せり出しが二十センチほどで手摺に頼るしかなかったのである。


「パキッ!」


 ところがその手摺は、全部の根元が簡単に折れて外れ、金雄は、

「あーーーっ!」

 と、叫びながら手摺を掴んだまま真っ逆様に落ちて行った。

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