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脱出(1)

 エレベーターはぐんぐん昇って行って、やがて静かに止まった。郁夫の所から数百メートルは離れているだろう。ああは言ったものの、本当は二人を助けてくれるのではないかという虫のいい期待は、直ぐに消え去った。


 明かりはついていたが、二人の心臓の音が聞こえるかと思うほどの静寂がそこにはあった。少しの間二人は動けずにいた。ひょっとするとまたエレベーターが動き出すのではないか、その様な錯覚に囚われていたからである。


 しかし暫く待ってみても何も起こらないと分かると、先ずどうすればいいかを話し合った。

「エレベーターの屋根に登れば良いわ。横の方の壁に鉄製の梯子はしごが付いている筈よ。以前このエレベーターがもし止まってしまったらどうするのか聞いてみた事があるの。

 そういう場合は屋根に出て横の壁にくっ付けてある梯子を登れば良いと言っていた事を思い出したわ。一番上に行くと横にせり出しが付いていて出入り口のドアまで行ける様になっているのよ。万一の場合に備えて内側からも開けられる様になっている筈よ」

「そうか、それなら安心だ。その前に、野々宮から聞いた事は言わない方が良いかも知れないと思うんだけど、どうだろう? 特に東の森の人間狩りのことは最高機密だと言っていたよね」

「ええ、私もそう思う。本当は言いたくないけど、浜岡に先生を付けて言うわ。言い方を変えると疑われる恐れがあるもの」

「良し、そういう事にして、それじゃあ屋根に出るか」

 通常屋根に出るのには、ボルトを外す為のドライバー等の器具が必要なのだが、よく見ると既に外してある。金雄は得意のジャンプ力で天井板を強く押した。簡単に上の方に外れて、難なく屋根に登れた。


「ああ、これは!」

 金雄の叫び声に、

「ど、どうしたの。何かあったの?」

 ナンシーは不安げに聞いた。


「死体がある。こっちが本物の警備員じゃないのか?」

「待って、私も上に行くわ。それっ!」

 ナンシーのジャンプ力もなかなかのもので簡単に屋根の上に出る事が出来た。


「ああっ! 酷いわねこれ。銃で撃ったみたいな感じだわ。そうだわ、確かにこの人が本物よ。何度か見た事があるもの。ちょっと待って」

 ナンシーは警備員が本当に死んでいるかどうか、手首の脈を測って確かめた。


「全然脈がない。本当に死んでいるわ。可哀想に……」 

「しかしどうしてここにわざわざ運び上げたんだろうね。まあ、エレベーターの中には置けないけどね。置いてあったら俺達が乗らないのは当然だけど、他に置く場所が無かったのかな……。

 ああ、体にロープが巻き付いている。これで引き上げたのか。うーんまてよ、多分こんな所だろう。彼はムーンシティで警察に追われていた。

 それで密かにエレベーターの乗り場に逃げて来て、得意の機械操作でエレベーターに一人で乗った。横穴で降りてエレベーターを元に戻した。何も知らずに警備員が俺達を迎えに来た。

 エレベーターは途中で止まって、ドアが開きその途端に待ち構えていた野々宮に射殺された。彼は予め用意していたロープで警備員の体を縛り、屋根に登って彼を引き上げた。そして警備員に成りすました。十五分位遅れたのもその為だったんだろう」

「でも遺体が重くて持ち上がるかしら?」

「多分滑車とか超小型のクレーンとかを使ったんじゃないのかな。今回の様な事があることを予め見越して、何年も前からあれやこれやと準備していたんだったら、当然その位の機械類は支度していただろう。

 ひょっとすると野々宮が降りた横穴に、その機械の類が隠してあったんじゃないのか? だとすると食料なんかもたっぷりあるのかも知れないぞ」

「降りれば良かったかしらね」

「いや、俺達を殺す支度もしてあるだろうよ、多分」

「そうねえ、私達と仲良く暮らすなんて有り得ないものね」

「ははーん、そうか。遺体を単純に隠すだけだったらその横穴に隠せば良いんだけど、そこで遺体と一緒に暮らす積りが無かったから、わざわざエレベーターの屋根に運んだんだろうよ」

「ああ、成る程」

 ナンシーは十分に納得したが、些細な疑問も言ってみた。

 

「ところで警備員の服はどうしたのかしら?」

「当然、前から横穴に用意していたんだろうね」

「そうね。それで一応謎は解けたわね。それじゃあ梯子を登って帰りましょう」

「うん、そうだな。こんな所に長居は無用だ。梯子を登って、あれ? 梯子は何処だ?」

「出口に向かって右側の壁にあるはずよ。右側だけに八十センチ位の隙間があって、ええっ? 無い、梯子が無い! ああっ! 切り取られている!」


 大変ではあるが、頑張って梯子を登りさえすれば外に出られる。そう思っていたので比較的落ち着いて行動出来たのである。

 しかしその梯子が上に五メートル、下にも五メートルほど切り取られていて、登る事も降りる事も出来ないのだ。どうやっても届きそうにない。意識的に届かない様に切り取って置いたのは無論野々宮であろう。


「どうすればいいの! うううっ!」

 ナンシーは絶望的な状況に泣いた。浜岡の恐ろしい正体を知ってしまった事も影響しているのか、酷く弱気になっている。


「ナンシー、まだ諦めるのは早いぞ。そりゃっ!」

 金雄は先ず一度飛んでみた。足場が悪く助走も出来ないので、思ったほどジャンプが出来なかった。一メートル以上足りない。

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