大道ロボット屋(5)
「そうよ、今日は天気が悪いから早めに仕舞う事にしたの。雨の中じゃ営業は出来ないのよ。屋根が無くてリングが濡れるから、滑って危ないでしょう?」
「ああ、そうなんだ。店仕舞、手伝いましょうか?」
「有難いけど、素人がやるとかえって手間が掛るのよ。後、十五分もあれば終るから散歩でもして来て」
「それじゃあ、お言葉に甘えてひとっ走りして来ます」
青年は猛スピードで走って行った。
『す、凄いスピードだわね。あれだったらオリンピックに出ても優勝しちゃうんじゃないのかしら? あちゃ、また名前聞くの忘れちゃった。今度来たら必ず聞くぞ!』
そんな決心をしながら商売道具を片付けた。それが終ったのと殆ど同時に雨がポツリポツリと降り出した。
「まだ帰って来ないわね。何処まで行ったのかしら?」
「ただいま!」
青年は行ったのとは逆の方向から帰って来た。
「ひっ!」
また美穂はビックリした。
「何処から来るのよ! 普通行った方向から帰って来るものでしょう?」
「はははは、済みません。ぐるりと回って来たものですから」
二人が話をしている間にも雨がだんだん強くなって来た。
「さあ、早く車に乗って。話は後よ」
青年を助手席に乗せると直ぐにトラックを走らせた。
「私の知っているレストランで良いわよね。ええとまだ名前を聞いてなかったわ。私は小笠原美穂。あなたは?」
「俺は、ええと、こ、小森金雄、です」
青年はぎこちなく名乗った。
「ふうん、意外に平凡な名前なのね。もっとこう強そうな名前だと思った。ああ、そうそう時間の方は大丈夫? 何だったら帰りはこのトラックで送るわよ。あなた学生さんでしょう? それとも社会人なのかしら?」
「学生じゃないです。社会人かな?」
「仕事をしてるんでしょう? ああそうか、フリーターって奴ね」
「まあそんなところです」
「そう。レストランまで小一時間くらい掛るんだけど良いかな? 私の知り合いがそこのオーナーなのよ。もし駄目だったら近場で間に合わせるけど」
「美穂さんの知り合いの人の居るレストランで良いですよ。遅くなっても全然平気ですから」
「分かったわ。私、貴方に聞きたい事は山ほど有るんだけど、先ず自分の事から言うわね。私ねバツイチなのよ」
美穂は離婚している事を何故か自慢げに言った。
「バツイチ、離婚してるんですか?」
「そう。子供は居ないわ。今の仕事が出来たのは彼の慰謝料が有ったからね。お金持ちなのよ。でも彼はいわゆるホモとかいう奴で、私に全然関心が無いの。
私は世間を欺く道具に使われたのよ。結婚前は普通の男を装っていたけど、結婚後はもう全然だったわ。殆ど詐欺ね。離婚訴訟で私は勝った。慰謝料は五千万ピース。私は格闘技とロボットの両方に興味があったから、今の大道ロボット屋を始めたのよ」
「五千万ピースって大変な額ですね。そんなにお金持ちだったんですか?」
「断っておくけどお金が目当てで結婚した訳じゃないですからね。『君の知的なスマイルが素敵だ』、なんて言うからついこっちもその気になったのに、結婚した直後から男の愛人の所に入り浸って、私の事は見向きもしなかった。呆れるでしょう?」
「ま、まあね」
「何千億っていう資産があるのよ。本当は五億ピース要求したんだけど、あの男の顔を一秒も見たくなかったから、即金五千万ピ−スで手を打ったの。あの男にとっては安いものよ」
「へえーっ! 俺なんかには想像も付かない世界だ!」
金雄は目を丸くして驚いた。
「で、そのお金で中古のトラックと折畳み式のリング一式を買った訳よ」
「ロボットも買ったんですか?」
「まさか、ロボットが幾らすると思うの?」
「三千万?」
「甘い、甘い。本当の制作費は多分そんなものだと思うけど、買えば普及型でも一体五億ピースはするのよ」
「えーっ! ……気絶するような金額ですね。じゃあ借りてるんですか?」
「そう、保険料も含めて一体月五十万、機械に故障は付き物だから予備は絶対に必要で二体で月百万のリース料が掛るのよ。一日平均二十五人位のお客がいるとすれば、単純計算で月に百五十万の売り上げになる」
「それだったらリース料を支払っても五十万の儲けだから楽勝でやっていけますね」
金雄は安心した様に言ったが美穂は、
「ふふふふ、そうは行かないのよ」
笑いながら否定したのだった。