反乱(14)
「どうです? じゃあ動かしますよ。ゴーッ!」
やはり郁夫の一言で、エレベーターは動き出した。まだ水平移動が続いている。
「私の声にのみ反応するのでね、真似して言っても無駄ですよ。それにある程度以上の大声を出すと、暴走しますので気を付けて下さい。
それと、私が命令しない限りこのエレベーターは永遠に動き続ける。同じ所を行ったり来たりを無限に繰り返すのです。
外から何とかするには電源を切って、このエレベーターに取り付けてある装置を外す必要がありますが、大変な作業になります。
色々と手の込んだ仕掛けをして置いたので、一ヶ月は掛かるでしょう。その前に私達は餓死してしまいます。ふふふふ、なかなか面白い趣向でしょう?」
郁夫は小気味良さそうに笑いながら、金雄とナンシーの蒼ざめた表情を楽しんでいる様だった。
「一体俺達をどうする積りだ!」
「焦らずに私の話しを良く聞いて欲しいですね。どうするかはその後での事ですよ」
憎らしい程に冷静である。
「分かった。話を聞こう」
「聞きますわ」
金雄もナンシーも観念した。
「私はムーンシティの建設に携わった人間の一人です。このエレベーターだって私が設計したのですから」
「そうか、それで自由に操れるんだ」
「そういうことです。それ程の功労者なら少なくとも上級市民であり、その他に沢山の特権があってもいい筈です。しかし私はムーンシティでは中級市民止まり。
特権もほんの少ししかない。馬鹿馬鹿しいのである日を境に浜岡に協力しないことにした。そして密かにムーンシティの乗っ取りを画策していたのですよ。計画は順調でした。
ところが色ボケしたケイン部長が暴走してしまった。東の森での事件を切っ掛けに恋敵の小森金雄を掘削現場に強引に送り込んでしまった。そうですよねえ、エム」
「う、ま、まあ、そういうことだ」
「あの男を信頼した俺が馬鹿だったが、何時の間に作ったのか浜岡のロボット兵にまでは気が付かなかった。いや、何体か出来ているという情報は掴んでいたが、あれ程あるとは計算外だった。それでも予定通りにやっていれば何とでもなったのに、あの馬鹿が!」
郁夫は少し激高したが、それに合わせてエレベーターが急にスピードを上げだしたので、慌てて、
「ストップ! ゴウ!」
と、叫ぶと通常のスピードに戻った。それからは淡々とした口調で喋り続けた。
「お陰で私の計画はめちゃめちゃになってしまった。それどころか私の近辺に捜査の手が及び始めたんですよ。そこで私は高飛びを計画した。
しかし資金が余り無くてね。自分の安全の為には最低でも百億ピースは必要だったので、八百長を思いついたんです。
私が貴方に申し出た金額二十億ピースは嘘ではありませんよ。三十億ピースぐらいは持っているんですからね。それに美少女の提供も嘘ではない。東の森用の美少女の斡旋もしていたんですからね」
「東の森用の美少女って何ですか?」
ナンシーが小首を傾げながら聞いた。
「はははは、これは最高機密なのでね、殆ど誰も知らないと思うのですが、しかしナンシーさん、浜岡の愛人という噂のある貴方でも知らなかったんですか?」
「わ、私は浜岡先生の愛人なんかではありません! 噂だけですから!」
ナンシーは金雄の手前もあって必死に否定した。
「浜岡先生? はははは、あの男が先生ですか、あはははは。そうか、ひょっとして、監視カメラでも回っていると思っているんですか?
私とエムとの電話でのやり取りは盗聴されてしまったようですが、ここは大丈夫ですよ。むしろあなた方の情報が途切れて今頃大騒ぎしている筈です。
この中からの電波は一切届かない様にしてあるので、どんなに巧妙に取り付けた盗聴器の類でも、何の役にも立ちませんから」
郁夫は自信満々で話を続けた。
それから少しして、水平移動の終わりを告げるブザーが鳴った。今回は要領が分かったのでいかにも頑丈そうな手摺に金雄もしっかりと掴まった。
エレベーターは坂道を昇るように移動して行く。しかし郁夫は不満そうな表情を見せた。
「初めての人は皆驚いて褒めてくれるのですが、何度か乗っているうちに『もっとスムースに移動出来ないのか!』と不満を言うようになる。私の設計は手摺なぞ必要としないほどスムースに動くものだったのだ。それを浜岡がケチったのさ!」
如何にも軽蔑し切った様な言い方をした。