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反乱(13)

「そうよ。その種の仕事を地上でして来た人達が主にやっているんだけど、お札の様な精巧な印刷物も含めて、ムーンシティで使われている製品の殆どはここの市民によって作られているのよ。

 前にも言ったけど、凶悪な犯罪者の中にはこういう優れた技能を持つ人も沢山いるわ。そういう人達は中級市民として優遇されているのよ」

「中級市民ね。その人達は地上に出られるのか?」

「厳しい制約はあるけど、出られるわよ。ちなみに私やカランみたいに比較的罪の軽い者たちは最初から中級市民という事になるのよ。

 更に位が上がって上級市民になると、前の警察部長のケインや、今の部長のピアッサーさんなんかがそうなんだけど、勿論多少の制約はあるけど、相当自由に地下も地上も行き来出来るわ」

「そうなのか。ところで俺は今、下級市民なんだよね」

「ええ、そうよ」

「下級市民が地上に出てもいいのか?」

「下級市民の場合には、中級市民以上の者が一緒に行動する場合に限って地上に出る事が許されるのよ。つまり金雄さんが私と一緒なら良いという事になるわ」

「成る程、理屈としてはきっちりしているな」

「そう、完璧なのよ」

「それじゃあキングの場合は? 最上級市民なんだろう?」

「うーん、彼位になると、もう私達のレベルじゃ分からないわね。浜岡先生にでも聞いてみるしかないわ」

「そうか、キングは今地上にいると聞いたけど、一体何をしているんだろうね?」

「残念だけど全然情報が無いわね」

 話をしながら歩いている内にVIP用のエレベーターの乗り場の前に着いた。午後三時五分前だった。ほぼベストなタイミングと言って良いだろう。


 三時ジャストにエレベーターが来ると思っていたのだが、実際に来たのは三時十五分頃だった。

「三時ジャストという事じゃなかったのかな?」

 金雄の疑問にナンシーはあっさりと答えた。


「大人の常識として十五分位の余裕は必要だわ。浜岡先生は三時に来いとは言ったけど、エレベーターが三時に着くとは言っていないわ」

「成る程、そんなものですかね」

「そんなものですわよ」


 二人は到着したエレベーターに乗り込んだ。エレベーターには警備員の男が一人乗っている。来た時と同様にまるで地下鉄の様に水平に移動して行く。二度目ではあるが、金雄には未だに信じ難い様な未来的な乗り物だった。


 電車風(?)エレベーターが動き出して間も無く、中年の白人の警備員が、

「遅れて申し訳無かったです、はははは」

 と、流暢な日本語で少し笑いながら言った。


 他にも流暢な日本語を話す白人や黒人もナンシーも含めて結構いるので、金雄も今ではさほど驚かない。

「やっぱり、本来は三時に到着だったんですか?」

 金雄は自分の言った事が正しかったのだと思って、チラッとナンシーの横顔を見てから言った。


「いや、そうじゃなくて、遅れた事は確かなのでその点はお詫びします。その代わりと言っては何ですが、色々と面白い情報を提供いたしましょう。ふふふふ」

 警備員の様子がおかしいと、金雄もナンシーも思った。何故いちいち笑うのか。


「最初に一つだけ約束して頂きたい。私を殴ったり捕まえようなどとすると、恐ろしい事になるので、そういう事はしないで貰いたい。もっともここで心中したければしても構いませんが、あはははは」

「あんたは誰なんだ?」

「私は野々宮郁夫ののみやいくお。ナンシーさん同様、外見は白人だがこう見えてもれっきとした日本生まれの日本育ちの日本人だ。しかし小森金雄さん、別名エム! 私は貴方に吉田と名乗ったんですがね、この声をお忘れですか?」

「よ、吉田!」

 金雄は罠に掛ったと悟った。


「ナンシーさんは私を知らないようですね」

「な、何のこと? 金雄さんどういうことなの?」

「昨日、俺に八百長を持ちかけて来た男だ。地下格闘会に関連した手入れは、この男とその一味を捕まえる為だったんだ」

「どうして私に教えてくれなかったの! み、水臭いわよ!」

「まあまあ、痴話喧嘩ちわげんかなら後にして下さい。このエレベーターは私に乗っ取られたんですから、あなた方は人質なんですよ」

「ふふふふ、それは逆だわ。貴方を捕まえて、警察に突き出してやる!」

 ナンシーは強気に言い放った。


「状況が分かっていないようですね。だからさっき念を押したのですよ。私を捕まえよう等とするとこのエレベーターは本当に暴走しますよ」

 郁夫は冷静に言った。


「暴走する?」

 意味が分からずに金雄が聞き返した。

「そうです。今このエレベーターは外からでは操作出来ないんですよ。操作しているのは私なんですからね。はははは、試してみましょうか。ストップ!」


 郁夫の一声でエレベーターは静かに停止した。ナンシーと金雄は思わず顔を見合わせた。

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