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大道ロボット屋(4)

 三人がリングに上がると倒れたままのホワイト号が如何いかにも邪魔じゃまだった。

「邪魔だな」

 背の高い大男が二言目を発して、太い足でホワイト号を蹴ると、

「ドォン!」

 大きな音と共に八十キロは有るホワイト号が一発でリング下に落ちて行った。相当のパワーである。二人組みの男達の強さを知るにつれ美穂はますます心配になった。しかし青年は平然としている。


「一分も有れば片付きますからゴングを鳴らして下さい」

「あはははは、こいつは面白い冗談だ。ふふふっ、一分で片付くのはどっちだろうねえ。さあ始めようか、姉ちゃんゴングを鳴らしな」

 小柄な男は大笑いをして試合開始を催促した。美穂はまたも渋々とゴングを鳴らした。


「カーン!」

 ゴングと同時に小柄な男は何故かポケットに右手を突っ込んだまま青年に寄って行った。大男の方は青年の後ろに回り込もうとしていた。


「パッ!」

 小柄な男はポケットから取り出した目潰しを、青年に向かって投げつけた。しかしそこに青年は居なかった。目潰しは大男に掛ってしまった。


「ウワーッ!!」

 もろに顔面に当たってしまって、大男は悲鳴を上げた。その直後に青年は大男の足を取ってひっくり返した。大男は勢い余ってリング下に転落。

 目の見えない状態だったので、受身も取れずにまともにコンクリートの地面に身体を激突させて、失神してしまったのである。


「貴様やるな。それならこれでどうだ!」

 小柄な男は猛スピードで動き回って青年を幻惑げんわくする作戦に出た。ところが青年は彼の動きにぴったり付いて行き、尚且つ拳での連続攻撃もした。

 素早く動くだけで精一杯の小柄な男は満足に防御が出来なかった。その為か、あっけ無いほど簡単にあばら骨が数本折れた。


「うううぐぐっ!」

 小柄な男は胸部の激痛の為にノロノロとしか動けない。その直後、今度は膝蹴りが数発腹部に食い込んでついに小柄な男も失神した。

 勝負あったとみるや、青年は最上段のロープを軽々と飛び越して、ダイレクトに地上にふわりと殆ど音も無く降り立った。息の乱れも無い。

『凄い! この人只者じゃないわね。うーん、でも、格闘技界にこんな人居たかしら?』

 美穂は青年の格闘家としての力量に感嘆しながらも、得体の知れ無い不気味さも感じていた。


「あのうこの間みたいに救急車を呼んで下さい。もし事情を聞かれたら、やっぱり二人で喧嘩したんだと言っておけば良いですよ」

 余りに気軽そうに言うので、青年に若干の疑念を抱いていた美穂はちょっとムッとした。


「助けて貰ってこんな事を言うのも何なんだけど、有難迷惑なのよね。この間、もしお金を払っていたら、今回の様な事にはならなかったと思う。たまたまあんたが来てくれたから良いようなものの、そうでなかったら四十万ピースを支払わされていたのよ」

「分かった。なるべく気を付ける様にするよ。それじゃ」


 青年が帰り掛けると、美穂はあわてて声を掛けた。

「ちょっと待っておくれ。助けて貰ったお礼をしたいんだけど良いかな?」

「うーん、今はちょっと忙しいから、近い内にまた寄らせて貰うよ。お礼ってお金ですか?」

「はははは、食事をおごるだけよ。それでチャラという事でどうかしら? ちょっと安過ぎるかな?」

「いや、それで十分ですよ。頼まれもしないのに無理に助けたんだから」

「何か引っ掛る言い方ね。まあ良いけど、じゃあ近いうちに寄ってね。今ごろの時間が良いわね」

「ああ、分かった。それじゃ」


『ああ、失敗した! また名前を聞くのを忘れたわね』 

 聞き忘れた事に彼女が気が付いたのは、青年がスタスタと歩いて行ってしまった後だった。


 美穂は救急車を呼ぶ前に、ロボットのゴールド号に手伝って貰って、気絶した二人を路上に静かに寝かせてから組立式のリングを片付けた。

 ホワイト号の残骸ざんがいをトラックに載せて、ゴールド号には用心の為に助手席に乗って貰ってから、救急車を匿名で呼んでその場を去った。 


 一週間が過ぎた。青年は現れない。

『これっきりという事は無いでしょうね?』

 美穂は何の御礼もしていない事が気掛りだった。その日は曇っていて、夕方になると更に暗くなって一雨来そうである。照明設備が貧弱なのでもう店仕舞する事にした。


「こんばんは、いやこんにちは! かな?」

 後ろから声を掛けられて、ビックリして振り向くと、例の青年だった。

「ビックリさせないでよ。またあいつ等の仲間が来たのかと思ったじゃない!」

「はははは、済みません。でも、もうあいつ等の仲間は来ないと思いますよ」

「ええ! どうしてそんな事が言えるの?」

「あいつ等のボスらしい男をらしめておきましたから」

「な、何ですって。……ひょっとしてそれで一週間も掛ったのかしら?」

「まあそんな所です。ところで今日はもう店仕舞ですか?」

 青年は何気ない感じで言った。

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