反乱(5)
「そうだったんだ。ちょっと気の毒だけど仕方が無いわね。それで刈谷は素早く逃げ出して、ケイン部長に貴方が三人の男を殺したと嘘の報告をしたのでしょうね。でもその時既に警報が鳴っていたのよきっと。火災が発生したっていう」
「ビエンターと、ロボットが燃えたからね。でもどうして分かった? 森が深くて外からは見えないと思ったけど?」
「ふふふ、煙探知機や温度センサーはムーンシティ中にあるわ。金雄さんは直ぐその場を離れたから分からなかったと思うけど、スプリンクラーで自動消火されただろうし、消防車や救急車なんかが、一斉に燃えたビエンターとその美女ロボットの所に集結したと思うわ」
「うーん、しかし直ぐにはスプリンクラーは作動しなかったと思うけど?」
金雄は美女ロボットの燃える様子に見とれていた事を思い出していた。普通ならその時点で既にスプリンクラーが作動する筈だと思ったのである。
「そうねえ、刈谷という男がメカに強いんだったら、その近くのセンサーを遮断していたのかも知れないわよ」
「ああ、成る程。刈谷にしてみれば、俺が彼の罠に掛かって燃えると考えたんだろうね。とすれば美女ロボットは何れにせよ燃えると考えていた訳だ。
それで直ぐ警報がなったりスプリンクラーが作動しては不味いと思って、あの近辺のセンサーをシャットアウトしておいたんだろうね」
「きっとそうだと思うわ。でも煙はかなり遠くまで流れて行ったでしょうから、煙感知器が遅かれ早かれ作動して警察とか消防署の方に連絡が入ったのよ」
「成る程。でも直ぐ側までは寄れないと思うけど。木が邪魔でね」
金雄にはその点が良く分からなかった。
「ところが大丈夫。緊急車両が通れる様に、全体の何割かの木は地下に収納される様になっているのよ。余程発見が遅れて大火になったら別だけど、そうでない限り緊急車両は五分以内にムーンシティの何処へでも行ける様になっているわ。緊急車両基地が何箇所かに分配されてありますからね」
「へえーっ、凄いシステムだね。たまげたな」
金雄はちょっと感心して言った。
「金雄さんには批判されるかも知れないけど、一応ユートピアを目指しているんですからね」
「はははは、確かに部分的にはユートピアなんだろうね。しかし前にナンシーは言ったよね。最下級市民にも週一で休みもあるし、給料もあるって。
だけど無かったぞ何にも。残業手当もだ。死んだ者もいたけど、ごみの様に処理されたぞ。掘削現場だけ特別なのか?」
「そ、それは……。知りませんでした。確かに私の知っている最下級市民の中に、芸術家として成功して、最下級市民から脱却した人もいるのよ。それは信じて。そ、そのうち掘削現場については浜岡先生に聞いてみます。どうしてなのか、でも……」
「まあ、不安だったら無理に聞かなくても良いよ。話を元に戻そう」
肝心の問題の答えはまだ出ていなかった。
「東の森が何の為にあるのかの答えが出ていないんだけどね」
「弱ったわね、私にも全然分からないわ。一応ネットで調べてみるけど、今日のお話はここまでにしない? そろそろ地下格闘場の方へ行かないと」
「ああ、分かった。じゃあ行こうか」
そこいら辺りで残り少なくなっていた料理、怪しげな美味いのか不味いのか良く分からない寿司等を食べつくして、お開きにすることにした。
二人が地下格闘場へ着くと、かなり賑やかな事に驚いた。
「どうやらポンポコ目当てらしいわね。彼は相当人気があるみたい。不味いわね、普通に勝ってもブーイングが出そうだわ」
「そうか、やたら長い名前だと思ったけど、略称すればポンポコで良いんだな。……まあ色々工夫して戦ってみるよ。当たって砕けろさ。俺はランキングが41位だから赤いコスチュームだよね」
「ええ、そうよ。じゃあ何と無く妙な感じだけど、金雄さんファイトよ!」
「よし、やるぞ! オーーーッ!」
金雄は珍しく気合を入れて試合場に向かった。それから間も無く、青いコスチュームのポンポコとの奇妙な戦いが始まった。
観客の入りは八十パーセント位だろうか、Cクラスにしては相当に入っている方である。それもこれもポンポコの人気の賜物なのだろう。先ず試合のアナウンスがあった。
「コモリカネオ、バーサス、ポンポコペコポン・ペンペコポコペン・ペンポンパンポン・ポコペコパコポコ・ペコパコポンパン、ゴーーーッ!」
「ワッハッハッハッハ……」
対戦者の名前を言っただけで場内がどっと沸いた。
ドアがサッと開いて金雄は突進したがポンポコは両膝をガクッと落とし、
「お願げえで御座えますだ。命ばかりは助けて下せえ!」
両腕を万才の様に上に伸ばして挙げ、流暢なしかも砕けた日本語で大袈裟にそう言うと、うやうやしくひれ伏した。
それからまた膝を付いたまま起き上がり、同じ動作を今度は英語で言いながらした。更に同じ動作を言語を変えて何度も繰り返した。言葉の意味が分かるたびに場内はどっと沸く。
その上彼の長く伸ばした、先を団子状にした髪があっちへ行ったりこっちへ行ったりして、それがまたユーモラスなのである。完全に彼のペースだった。
金雄は困った。一蹴りすれば彼を倒せるが、ブーイングは必至だ。ポンポコは彼の知っている十数カ国の言語を言い終わると膝を付いたまま五、六歩前進した。