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死の現場(6)

『諸悪の根源はやっぱり浜岡だ。しかしキングというのは? 名前は何度も聞くが見た事は無い。本当にいるのか? それにしても野沢幸吉には可哀想な事をした。助けるべきだったか?

 しかしそうなったら監督達は俺を倒しに掛かって来るだろう。あの連中を倒す事は容易だが、そんな事をしたら恐らく皆殺しになる。ここの雰囲気からするとそういう風にしか思えない。

 ……恐ろしく辛いがこれで良かったのだ。ああしかし、ユートピア? これがか? 馬鹿馬鹿しい。何が、何がユートピア計画だ!』


 何時の間に眠ったのだろう、壁の時計を見ると朝の六時を過ぎている。何時もの様に弁当を食って、プレハブの裏で暫くトレーニングをしていると神田監督がやって来た。


「ああ、ここにいたのか。あんたは1202の21番、小森金雄だったよね」

「はい」

「ちょっとこっちへ来て貰いたい」

「はい、何か?」

「来れば分かる」

「はい」


 何の事か良く分からないままに金雄は神田監督に付いて行った。暫く歩くとトラックがあり、その側に信じられない者の姿を見た。すっかりやつれた、ケイン部長と刈谷の二人だった。


 二人とも顔の一部が青くはれ上っている。かなり殴られたのだろう。二人は金雄と視線を合わせられなかった。神田監督が簡単に事情を説明した。


「二人亡くなったので補充をお願いしたんだが、早速回してくれた。ただ、キングからの命令で、小森金雄さん、あんたは最下級市民ではなくなった。

 だからこのトラックでここを出る事になる。また一人補充が必要なんだが、まあそれは小森さんには関係の無い事ですからね。じゃあ、短い間だったが、貴方にお会い出来て嬉しかったですよ、エム」

 金雄は神田監督がエムを知っている事に驚いた。


「俺がエムだという事を知っていたんですか?」

「私達のようにこの地下都市から抜け出せない者にとって、地上の情報は宝物です。エムの噂もしきりに伝わって来ていました。

 そんな時に、いきなり初日から十二時間でノルマをこなす者が現れたんです。しかも今では十時間で終っている。前代未聞です。

 こんな事が出来るとすれば、キングかエム位だと、監督仲間では専らの噂でした。やっぱり貴方がエムだったんですね」

「え、ま、まあ。別に隠す積りは無かったんですが、あえて言うことでもありませんし」

 監督の丁寧な対応に恐縮して言った。


「ええーっ!」

 金雄がエムだと知って、ケイン部長は驚きの声を上げた。彼もエムの噂は聞いていたのだが、金雄がそうだとは知らなかった様である。呆然と見詰めるケインに構わず、神田監督は言葉を続けた。


「それ程の腕を持ちながらよく二人が亡くなった時、耐えられましたね。本当は冷や冷やしていたんですよ。腕力に自信があるとそれを振るいたくなるものです。

 しかし結果は悲惨な事になる。反乱は重罪です。私共も含めて全員が処刑されます。私共の家族もです。よく我慢して下さった、有り難う、本当に有難う御座いました。ううううっ……」


 神田監督は金雄の手を取って感謝の気持ちを涙さえ流して伝えた。金雄は一段と恐縮したが、自分の判断が間違っていなかったのだと知ってほっとした。


 その場には二人の新入りを連れて来た数人の武装した男達もいたが、全員が金雄をエムとして握手を求めた。エムの評判は地下では意外に良いらしい。


 現場からの帰りは金雄と若い運転手の二人だけだった。手を振って別れを告げ、厳重なゲートは身分証で簡単に抜けて、トラックは街に向かった。ただ、金雄の知らない道を通って帰るようである。


 金雄は運転手に一つ二つ聞いてみた。

「ピンクタウンを通らなくても帰れるんですか?」

「はい。でも申し訳ないんですが詳しい事は教えられないんです。このムーンシティの詳しい地図を描いたり持っていただけで、死刑になりますから」

「えっ! あ、ああ、そ、そうですか。……じゃあもう一つだけ。このトラックもそうだけど、全部電気自動車なのはどうしてですか?」

「それは簡単な理由です。地下都市で最も怖いのは火災です。その原因になるものは出来るだけ排除するという事です。ですからガソリンは厳禁なんですよ。

 街でタバコを吸っている人もいないでしょう? 咥えタバコは即射殺なんですからね。でも普通の銃は使いません。あれも火災の原因になる恐れがありますから。

 ここで使われているのは、大抵バネ銃と呼ばれているものです。火薬ではなくてバネの力でタマを発射するんです。でも普通の銃と威力も音も殆ど同じなんですよ」

「へえーっ! 初めて聞く事ばかりだな。全然知らなかった」

「えっと、この地下都市にはまだまだ色々な秘密があるんですが、迂闊うかつに言うと命が危ないので、こ、これ以上はちょっと……」

 青年はあわてて口をつぐんだ。

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