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死の現場(3)

「ただのんびりやっていると、眠る時間が無くなる事もあるから気を付けてやってくれ。それと何よりも重要なのは、ここではロボットが優先という事だ。ロボットブルドーザー、通称ローザーの邪魔をしない様にする事が肝要だ。

 幾らノルマを早く達成したくても、ローザーの進行方向の前には絶対に立たない事。ローザーはバックして来る事もあるからな。

 一応人間を避けて通る様にプログラムされている筈だがしばしば判断ミスを犯す。もう一度言うがローザーは車の様な物だと思ってくれ。要するに急には止まれないという事だ」

 

 グルーズのその説明に憮然ぶぜんとした若い男がいた。いきなり手を挙げて、

「質問があるんですが良いですか?」

 そう言い出した。

「ああ、何だ、何か分からない事があるのか?」

 グルーズは面倒臭そうに言った。


「そもそも、人間よりロボットが大事とは何という事だ! ふざけるんじゃねえ!」

 その若者はそう叫んだ。グルーズは苦笑いをした。

「はははは、こっちへ来い! ここのルールというものを教えてやる!」

 グルーズが睨み付けるとその若者も睨み返した。そしておもむろにグルーズの側にやって来た。


「教えて貰おうか!」

 腕力には自信があるのだろう、若者は強気である。グルーズは顔写真付の名簿を見ながら言った。

「ふふふふ、相当力がありそうだな。お前は1202の29番か。気に入った。お前のノルマだけ特別に六トンにしてやる。いいか、これがここのルールだ。俺に逆らったり、ルール違反があればノルマが増える。分かったか!」

「な、何だって。こ、この野郎!」

 若者は殴り掛かったが、グルーズの動きは素早かったし、喧嘩慣れもしている様である。軽く足を引っ掛けて床に転がすと鞭が、

「ヒュンッ!」

 と、うなった。


「グアーッ!」

 一撃でほんの少し肉がえぐられる。鞭の扱い方が上手く腕力もあった。若者は悲鳴を上げて許しを請うた。

「わ、分かった。や、止めてくれ!」

「分かれば宜しい。間も無く昼食の弁当がトラックで運ばれて来るから適当に食ってくれ。お茶の紙パックも一緒に付いている。飲料水はそれで全部だから無駄にしない様にしてくれ。

 食った空の容器は、そのトラックの荷台にそのまま戻せばいい。ただし空の容器をそこいらに放置して置いたりすると、やっぱりノルマが増えるから、気をつけろよ。今日の正午からノルマ開始だ。

 なお俺は十二時間交代でやって来る。もう一人神田という人がお前らの受け持ちだ。俺みたいに優しくは無いからな、気を付けろよ」

 グルーズは一通りの事を言うと、チラッと逆らった若者を見てから部屋を出て行った。


 倒れた若者に構うものは誰もいない。みんな自分のことで精一杯だった。下手に助けたりしたら自分もノルマが増やされるかも知れないのだ。

 金雄も若者の傷が大した事はなさそうだったので、一瞥いちべつしただけで服を着替えた。全員男なので、すっぽんぽんになってもどうという事は無かったが、金雄の全身の傷だけは人目を引いた。


 先程の若者が着替えを済ませると、

「ふう、くそう、痛てえっ!」

 そう言って血の滲んでいる傷の辺りを擦りながら金雄の側にやって来て話し掛けた。


「あんたのその傷、そりゃ何だ。普通の傷じゃねえよな?」

「野犬に噛まれた傷ですよ。沢山の野犬に取り囲まれて命からがら逃げた事がある」

「へえーっ、よく死ななかったな。ああ、俺は野沢幸吉のざわこうきちと言うもんです。あんたは?」

「小森金雄。三人殺した事になっているんだけど、本当は無実と言うか、正当防衛というか、しかし幾ら言っても聞いて貰えなかった。それでここに連れて来られたんだけどね」

「ふうん、色々と訳ありな様ですね。差し支えなかったら話してくれませんか?」

 金雄はノルマが増え、鞭で打たれたのにも拘らず、落ち込んでいない野沢と言う青年に興味を引かれた。


 部屋の中で一緒に昼食を食べながら、差し障りの無い程度に、大樹海での事などを話した。

「へえーっ! 凄いですね。だったら、あの鞭を持ったグルーズという男に勝てますか?」

「まあ、勝って勝てんことは無いだろうね」

 金雄がそう言うと、幸吉は急に声を潜めて、

「それだったら、一緒にここを脱走しませんか?」

 そんな事を持ち掛けて来た。


「ふふふふ、その積りは無いな。暫く様子を見て、どうしても解放される見込みが無い時は考えるけどね……」

 金雄はまだ浜岡の動きに期待を寄せていた。何らかの手違いで解放が遅れているのかも知れないのだ。

「そいつは残念だな。じゃあ今の事は内緒にしてくれないか?」

「ああ、最初からその積りだ」

 幸吉との関係はそこで切れた。


『いきなり脱走とはね。しかしここは警備がとてつもなく厳重だ。無理しない方がいいと思うけどねえ……』

 幸吉が暴走しなければ良いと思っていた。


 昼食が終わり空の弁当の容器をトラックに捨てていよいよ作業開始である。早い連中は既にせっせと働いていた。現場近くの自分のロボットダンプのナンバーを確認すると、早速石を持って来て載せた。

 ロボットダンプは上部が全て低い荷台になっている。運転手も含めて人が全く乗らないのでその様な形状が可能なのである。

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