大道ロボット屋(3)
「あ、有難う。でもやり過ぎだよ。もうちょっと手加減は出来ないのかい!」
「済みません、こういう輩を見るとついムカついて。でもかなり手加減しているんですよ。殺してしまわない様にね」
「あ、当たり前でしょう! ……ところでこいつらはどうするかね」
「一応救急車を呼んで下さい。事情を聞かれたら三人が勝手に喧嘩をした事にすれば良いですよ。もし納得してくれなかったら俺のことを言っても良いです。それじゃ失礼します」
「あ、あのう」
美穂は何か言おうとしたが、青年は聞こえなかったのか、振り向きもせずどんどん歩いて行ってしまった。
言われた通りに救急車を呼んだが、事情の説明に自信が無かったので匿名にした。
『こいつ等にひょっとして仲間が居るんじゃないのかねえ……』
そう思って次の日からはそこから数十キロ離れた場所で営業を始めた。大道ロボット屋も数が増えて来ると、縄張りが自然に出来てくる。
本当はもっと遠くで営業したかったのだが縄張りの為にそれ以上の移動は出来なかったのである。それでも一ヶ月程は何事も無かった。
その日も営業が終った直後だった。小柄で目付きの鋭い男と身長は二メートルは有ろうかという大男が美穂に接近して来た。
「オイ、あんたの所の用心棒を出しな!」
小柄な男はそう言うと美穂を睨みつけた。
「よ、用心棒なんて居ないよ」
やっぱりやって来た、こんな事ならあの時三万ピースを渡しておくんだった、と美穂は後悔した。
「隠すと為にならねえぞ。ふん、まあいいや。今日は治療代を貰いに来た。用心棒の始末は後で付けるとして、三十万ピース出しな。そうすれば今日の所は大人しく帰ってやる」
「ち、治療代だって! 何の事だか分からないよ」
「惚けても駄目だぜ。一ヶ月ぐらい前あんたの所の用心棒に仲間三人が大怪我をさせられたんだ。一人頭十万、合わせて三十万ピースだ」
「そ、そんなお金は無いよ」
「ふうん、そうかい。それじゃあロボットと戦わせてくれ。ほれ二千ピース」
「二人一組で戦うなんて卑怯だよ。一対一にしておくれ」
「おや、俺が何時二人一組で戦うなんて言った? ふんっ、こんなガラクタ! 俺一人でお釣りが来るぜ!」
小柄な男はそう言うと、ひょいひょいとリングに上がった。恐ろしく身が軽い。美穂は嫌な予感がした。
「オイ! これは正式な試合なんだからゴングを鳴らせよ!」
「は、はい」
美穂は渋々ゴングを鳴らした。
「カーン!」
小柄な男の猛攻撃が始まった。今までホワイト号と戦った誰よりも強かった。みるみる全身が壊されていく。一分とは掛らずに、
「ドッターン!」
ホワイト号はばったり倒れたまま動かなくなった。
小柄な男は美穂の制止も聞かず倒れたホワイト号になおも蹴りを入れて、
「バキィッ!」
首が折れてリングの外へ吹っ飛んだ。
「もう止めて! 治療代は払いますから、もうこれ切りにして下さい!」
美穂が半べそでそう叫ぶと、
「へへへ、最初からそう言えば良いんだよ。手間を取らせやがって。ふう」
さすがに攻め疲れたのか男は大きく息を吐いた。それからするするとリング下に降りて来て言った。
「さあ出しな。四十万ピース」
「えっ! 三十万でしょう?」
「馬鹿を言っちゃいけない。俺様の妙技は十万ピースに匹敵するぜ」
「わ、分かりました、これ切りにして下さい」
「お金を渡しちゃいけない!」
現れたのはあの青年だった。
「遅かったねえ。このまま出て来ないんじゃないかと思ってハラハラしたぜ。でもまあ姉ちゃんを長々とからかっていた甲斐があったよ」
小柄な男は嬉しそうにニヤニヤ笑って言った。どうやら本当に用があったのは青年の方だったようである。
「俺に何か用か?」
「あんたは強いんだそうだね。だったら俺達二人と対戦してみないか」
「だ、駄目よ。この人達相当強いわよ。幾らあんたでもやられちゃうわよ」
美穂は心配そうに言った。
「うるせえな、すっこんでろ!」
小柄な男は激しい口調で叫んだ。
「分かりました。じゃあ折角リングも有る事だし、ここでやりましょう。二対一で良いですよ。お姉さん俺は大丈夫だから」
「へへへ、本人が一番物分りが良い。そういうこったからお姉さんゴングを頼むぜ。これは正式な試合なんだからな。怪我をしても、死んでも恨みっこ無しだぜ。おい! お前もリングに上がれ!」
「ああ」
背の高い方の男は初めて声を発した。彼はのろのろとリングに上がった。素早い動きは苦手なようである。青年はありふれたジーパンに白っぽい長袖のシャツを着ていた。どうやらそのまま戦うらしい。