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制裁(21)

「カネオサン、アルイハ、エム、サンデスカ? オニゴッコハオワリデス。ソロソロシンデクダサイ」

 ビエンターは十字手裏剣を構えた。


 ロボットとの距離は数メートル。ビエンターとの距離は7、8メートル。ビエンターは余り金雄に近いと捨て身の相打ちを狙われることを恐れて、それ以上接近して来なかった。


 何を思ったのか金雄はビエンターに向かって三、四歩走り寄った。そしてすかさず蹴り上げた。全くビエンターには届かないので、追い詰められて気が変になったのかと思われたのだが、いていた靴を蹴り飛ばして来たのだ。


 初めに右の靴を、次に左の靴を。右の方は大きくそれたが、左足の方はビエンターの顔面に真っ直ぐ飛んで行った。


 とっさに靴をかわして体勢を立て直している間に、金雄は助走をつけて貴婦人風のロボットの頭上を飛び越そうとしていた。ロボットはさっと両腕を上に挙げて阻止しようとしたが、その遥か上を金雄は体を水平にして飛び越した。


 くるっと一回転して見事に着地した金雄は、後方の刈谷にも気を配りながら、ビエンターから見えない様に姿勢を低くして素早くロボットの後ろに隠れた。


 女性を盾に使っている様で、気分の良いものではなかったが、今はそんな事を言っていられない。手裏剣が体をかすめただけで一巻の終りなのだ。


 先程のウィチカーニの状態から見て、いかに強力な毒物が使われているかが分かる。恐らくは看護師をしているという、ガナッシュの愛人から手に入れたものだろう。


「ヒキョウモノ! エムトモアロウモノガ、オンナノカゲニカクレテイナイデ、ハヤクデテコーイ!」

 ビエンターにそう罵られても出て行く訳には行かない。


「ウィーン、キュッ、キュッ、キュッ、キーッ!」

 ビエンターが金雄を罵っている間に、ロボットはその場で反転し、金雄の方を向いて、再びじりじりと寄って来た。刈谷は殆ど何もしていないので、全ての動作は自動で行われている様である。


 高度な自走型のロボットで、恐らくは地下格闘会の賞金の殆どをつぎ込んで作ったのだろう。しかし今回の金雄に対する制裁を第一に考えたからか、その行動は単純なプログラムで動作が決定されているらしく、型通りにしか動けないようだった。


 貴婦人風のロボットの接近に合わせて金雄も少しずつ後退する。ビエンターはこのままではらちが明かないと思ったのかロボットの横を通り抜けようと走り出した。


「来るなーっ! ビエンターッ! 止めろーっ!」

 何故か刈谷が大声で叫んだ。既に走り出していたビエンターは止まらなかった。女性型のロボットの右横をすり抜けようとすると、これもプログラム通りなのだろう、腕を横に出して通せんぼをした。


 ビエンターは予め予想していたので、難なく身をかがめて腕の下を通り抜けようとしたのである。当然ながら左半身はドーム型のスカートに存分に触れてしまった。


「バチ、バチ、バチッ!」

 火花が散り、

「ギャーーーーッ!」

 ビエンターは絶叫しながらもその場を何とか逃れようとしたが、全身が痙攣けいれんを引き起こし、スカートの上に倒れ込んでしまった。体中から煙が立ち昇り、着ていた服に引火して、間も無く激しく燃え出した。


 スカートに触れると高圧の電流が流れる仕組みになっていたのだ。ビエンターの炎はロボットにも燃え移り、あっという間にスカートと上半身を覆っていた衣服を燃やし尽くした。


 下半身は数多くのバッテリーとメカの塊である事を露呈した。しかし上半身は乳首まで丁寧に作られた、若く美しい女性の肌をあらわにしたのである。


 炎は女性型ロボットの金髪に燃え移ったが、それでも悠々と微笑むその姿は妖しいまでに美しかった。金雄は一瞬それに見とれたが、直ぐに我に返って最後の一人であろう、もうとっくに逃げ出してしまった刈谷を追い駆ける事にした。


 ロボットはビエンターがスカートのドームを作っていた針金の上に乗っていた為に、その重みで前進不能に陥り、炎の熱でメカが故障して遂に止まってしまった。先程まで美しかった若い女性の姿は、今はドロドロに溶けて見る影も無い。


 刈谷の逃げ足は速く、遂に見失ってしまった。東の森を熟知している者と、初めての者とでは行動力に雲泥の差がある。いかに足の速い金雄でも追い着けなかったのだ。


「あれっ! 困ったぞ。ここは何処だ?」

 更に悪い事に、夢中になって刈谷を追い駆けているうちに、道に迷ってしまったようである。方角が分かれば良いのだが、目印は何も無い。


 こんな時、地上だったら太陽の位置や、夜なら星の配置で方角が分かるのだが、地下都市にはそれが無い。しかも森は深く、全く見通しが利かないのだ。


 木に登って天井すれすれから見てみたがやはり他の木が邪魔になって、遠くは見渡せなかった。たった一つだけ少し気になる事があった。微かだが、何か大きな機械の音が聞こえて来ていたのである。

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