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制裁(18)

 彼等に出来たのは悶絶している三人の男達の手当てだけだったのである。

『あの男、エムには構うな!』

 暗黙の了解がピンクタウンに広がるのに大した時間は掛からなかった。


 一つの試練を乗り越えて、金雄は北へ北へと走って行った。走る程に段々辺りは明るくなる。すっかり明るくなった所に東の森の入り口があった。そこから更に五十メートルほど北に手を振っている男がいる。


「ああ、何だ、罠かと思ったけど考え過ごしだったな」

 周囲は実に静かで殆ど人気が無い。金雄は走り辛いのでズボンと上着を脱いで鞄に入れ、南国格闘会館の道着姿になって、その男の側に走って行った。


「ウィチカーニ、待ったか?」

 後十メートルほどの所で金雄は走りながら声を掛けた。しかしそいつはウィチカーニとは似ても似つかない男だった。それどころか全身から殺気を漂わせていたのである。


 その男は首から下をマントで覆っていた。金雄に手を振った時にはマントを後ろにやっていたのだろう。細身のズボンを穿いているらしいが、足首から上は両手も含めて何も見えなかった。


 恐らく手に何らかの得物えものを持っているのに違いない。それが何か分からないだけに不気味である。ヨーロッパ系の顔立ちだが流暢な日本語で喋りだした。


「小森金雄さんですよね」

「ああ、そうだが、あんたは?」

 金雄は男から四、五メートル程離れて立った。直ぐそばに寄らなかったのは拳銃の様な飛び道具を、マントの中から使われる事を恐れていたからである。


「私はガナッシュ。地下格闘会の選手だ。……こんな時にと思うかも知れないが、貴方は宮本武蔵を知っているか?」

 金雄は不思議な思いだったが、殺意は感じられても、急に襲って来るようにも思えなかったので、答える事にした。


「ああ、良く知っている。歴史上の実在した人物だ。剣の達人だったと思うが、それがどうかしたのか?」

 男が何を考えているのかさっぱり分からなかった。


「私は子供の頃に彼を描いた翻訳小説を読んでからの熱烈なファンでね。それで故郷のドイツから日本に留学して、剣も学んだのだよ。

 しかし、竹刀しないの剣道に段々興味が持てなくなって、彼と同様に、密かに真剣勝負をしていたのさ。似た様な真剣勝負にしか興味を持てない連中と共にね。

 その結果、五人殺した所で警察に捕まってここに送り込まれた。私は真剣勝負さえ出来ればそれで良いと思っていたのに、ここでは剣を使わせて貰えなかった。

 幸か不幸か私は格闘家としても一流であった為に不本意ながら地下格闘会で戦う羽目になった。大抵そうだ。素手の格闘専門の奴はそう多くはいない。

 仕方無しに、だが死に物狂いになってやっているんだ。しかし、お前は我々のプライドをはなはだしく傷つけた。確認の為に聞く。お前は手加減しているんだそうだな!」

 金雄には身に覚えがあった。


「確かに一度だけ言った事がある。しかし拙い言い方だと思ったから、大いに反省して二度とは言っていない」

「ふんっ、一度で十分なのだよ。二度も言われて堪るものか! ……ところでウィチカーニに会いたくないか?」

「えっ、来てるいのか?」

「森の奥の方でスヤスヤと良く眠っているよ」

「ど、どうしてそんな事をする!」

「彼の所に一緒に来て貰えないか? 道々事情を説明する。念の為に言って置くが、俺は礼儀正しい男だ。いきなり襲い掛かる等ということは断じてない。正式に決闘を申し込んで、お前と戦う。それまでの命は保障するから安心して貰いたい」

 金雄は一瞬迷ったが、乗り掛かった船である。事を起こすのは事情とやらを聞いてからでも遅くは無いと思った。


 二人は一メートル程の間隔で横に並んで森の奥へ奥へと歩いて行った。ガナッシュは滑らかな口調で喋り始めた。


「私と同じ様にお前を許せない者が五人いる。他にもいるかも知れないが、殺意まで持っているのはこの五人だけだろう。その中の一人にシャパールがいたんだ」

「えっ! シャパールが!」

「そう、馬鹿な男でねえ、あんたを殺す順序がくじ引きで二番目になったことに腹を立ててね」

「くじ引き?」


『殺人にくじ引きは無いだろう!』

 とも思ったが、話を詳しく聞く為に、それ以上の事は言わなかった。

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