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制裁(16)

「ええと、ウィチカーニは、Dクラスで低迷している訳か。何とか自分の得意技を作りたいから、東の森で必殺技を一緒に練習しよう、そういうことなんだな。

 それと地図がある。ここからだとちょっと距離があるな。何々、タクシー券を使って歓楽街、ピンクタウンの手前まで来い、となっている。

 ああ、成る程。地図にタクシー券が二枚ホッチキスで留めてある。二枚ということは往復という事だな。歓楽街を北へ抜けると『東の森』か。

 その入り口の辺りで待っているという訳だ。えーっ! 歓楽街で一時間位なら遊んで来ても良いと書いてあるな。ご丁寧に一時間のプレイ券まで付いている。教えて貰うお礼という事らしいな。

 ははーん、ナンシーがくどくどと言っていたのはここの事か。うーむ、気持ちだけあり難く貰って置く事にしよう。ナンシーに知られたら後が怖い」


 金雄の頭にチラッと、『妙に手が込んでいるな』という疑念が浮かんで来た。しかしウィチカーニが何処に住んでいるのか分からない。

『彼が東の森の近くに住んでいるとすれば、特におかしな所は無い。騙されたと思って行くだけ行ったみようか? タクシーにも乗ってみたいしな』

 金雄はまだタクシーなるものに一度も乗った事が無い。公共の電車やバスには何度も乗ったし、個人の車にも何度も乗っている。しかしタクシーだけは唯一無かったのである。


『だけど東の森に着いてから着替えるのも面倒だな。服の下に着て行こうか? ……うん、そうしよう』

 気持ちが決まると、『豊の海』を出てからホテルのトイレの個室に入って、南国格闘会館の道着に着替えて、その上にズボンと上着を着た。


 それから初めて一人でホテルの外に出て、地図に記してあったムーンシティタクシーの営業所に向かった。何と無く心許無いのは、たとえどの様な強者と言えども、やっぱり初めての一人旅だからだろう。


 地上ならいざ知らず、ここは地下二千メートルのムーンシティなのだ。考えてみると今まで遠出をした事がただの一度も無い。

 地図があるといっても、簡略なもので、地図に無い場所に迷い込んだら戻れるかどうか自信が無かった。しかも金雄は携帯電話も持っていない。

 それでも幸いな事に、地図の通りにムーンシティタクシーの営業所はあった。先ずは何とか第一関門突破である。


「あのう、タクシー券でここに行きたいんですが」

 事務室にいる受付嬢に地図を見せながら言った。 

「オーケー」

 受付嬢は無表情にタクシーを呼んだ。日本語は分からない様である。金雄は地図を持って来て良かったと思った。タクシーのドアが自動で開いたので、とにかく乗り込んだ。


「お客さん、ピンクタウンは初めてでしょう?」

 車を走らせながら、運転手は金雄にニヤニヤ笑いながら流暢な日本語で話し掛けて来た。

「ま、まあね。でもそこに用事があるんじゃないから」

「へへへ、大抵の人はそう言うんですよ。でもお客さん良い体しているから、持てますよ。ひょっとしてプレイ券を持っているんじゃないんですか?」

「よ、良く分かりますね。あの、友人からのプレゼントなんだけど。でもどうせ使わないから」

「それは勿体無い。プレイ券というのはどの店でも共通に使えるんだ。まあ、勉強だと思って使ってみた方が良いですよ。

 へへへ、腰が抜けるほど良い思いをしますからね。一度やったらもう病み付きになって、へへへへ……。さあて、少しずつ暗くなって来ましたね。ライトをけてっと」


 運転手の言う通り辺りはどんどん暗くなって来た。それから数分後にピンクタウンの入り口に到着した。妖しいネオンのまたたく一大歓楽街、ピンクタウンがそこに広がっていた。

 ピンクタウン一帯が暗いのは、夜のムードをかもし出す為の、地下都市ならではの演出らしかった。地上では絶対出来ない芸当である。


 金雄はタクシー券一枚を取って運転手に渡してそこで降りた。地図に拠れば、一番の大通りを真っ直ぐ二百メートルほど北上して、ピンクタウンを通り抜ければ直ぐ東の森がある筈である。


 大通りには肌も露な女達が、しきりに客引きをしていた。車の乗り入れが禁止されているので、東の森に行く為には、どうしてもそこを歩いて通り抜けなければならず、ウィチカーニの手紙に特に矛盾点等は無い。


 しかし金雄の頭の片隅では、『これは罠かも知れないぞ!』と既にかなり前から警鐘が鳴っていたのである。

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