表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/260

制裁(15)

 次の日は昨夜の分を挽回ばんかいしようと、コンビニで昼食の弁当や飲料水などを買って個室のトレーニング場に持って行き、朝から晩までトレーニングにはげんだ。


 夕食はやっぱり『月の砂漠』だったが、金雄は前日の失敗にりてアルコール類を一切飲まなかった。ナンシーも金雄に合わせてお酒を飲まなかったし、勧める事もしなかった。次の日の予定を細かく話し合って、かなり早めに眠ったのである。


 昼のトレーニングが何時に無く過激だったせいか、金雄は朝までぐっすり眠った。ナンシーも金雄に合わせて相当にハードなトレーニングをしたお陰でぐっすり眠れた。


 十二月一日の朝が来た。ナンシーは午前中カランと買い物である。午前九時にホテルの一階のレストラン、『豊の海』で待ち合わせる事になっている。


 売り切れを心配して、午前八時半少し前くらいに金雄とナンシーは『豊の海』に入った。バイキング式の簡単な朝食を、待ち合わせの時間を考えて、あえてゆっくり取っていると、間も無くカランが現れた。


「お早うカラン、貴方も朝食を食べない? 奢るわよ」

「オハヨウ、ナンシー、カネオサン。チョウショクマダハイイワ。エエト、ソノウ……」

「あのう、ナンシー山口様、お電話が入っております。恐れ入りますが事務室の方においで下さい」

 ウェイターがナンシーの側まで来て、そう伝えた。


「電話? 誰から?」

「警察の方だと伺っておりますが」

「警察? 警察が何の用かしら? 仕方ないわね、じゃあちょっと行って来ますから、お話しでもしていて下さいね」

 ナンシーの姿が見えなくなったのを確認して、カランは手紙を金雄に渡した。


「ワタシトナンシーガ、デカケタラ、コレヲヨンデクダサイ。ウィチカーニカラデス」

「ウィチカーニから?」

「ハイ、クワシイコトハテガミニ、カイテアルトオモイマスガ、ヒッサツワザニツイテキキタイ、トノコトデシタ」

「必殺技ねえ。うーん、俺に聞いてどうする積りだろうね。彼とは大して親しくないし、その種の事は普通人に教えたりしないんだけどねえ、余程親しければ別だけど……」

「ソコヲナントカオネガイシタイト、イッテイマシタ。ワタシカラモ、オネガイシテクレトイワレテ、ソノ、オネガイシマス、カネオサン」

「そうか、まあ、他ならぬカランさんの頼みとあれば、聞かない訳にも行かないよな」

 もう一つ納得の行かない話ではあるが、ナンシーの親友の頼みという事であれば、嫌とは言えなかった。


「アリガトウゴザイマス。ソレデ、ハズカシイノデ、カナラズヒトリデヨンデクダサイ、トノコトデシタ」

「ああ、分かった。じゃあ後で一人きりで読んでおくよ」

「デモナルベクハヤク、ヨンデクダサイネ。チョットイソグッテ、ウィチカーニガイッテイマシタカラ」

「うん、分かった。出来るだけ早く読むことにするよ」

 カランの言い方はかなりくどい感じであったが、人に物を頼まれた時はこんなものだと思って、大して気にもしなかった。それより警察からの電話の方が余程気になっていたのである。


 少ししてナンシーが不快そうな顔をして帰って来た。

「警察からって、ひょっとしてあいつか?」

「そう、ケイン部長よ。この間の私と貴方のキスは大分有名になっているみたいよ。本当にキスをしたのかとか、金雄さんの事が好きなのかとか、しつこく聞かれた。

 何で私がそんなことで電話に呼び出されなくちゃならないのかしらね。貴方に答える必要はありませんって言おうかと思ったけど、後が煩そうだし、本当の事を言ったら逆上しそうだったから、あれはたまたま酔っていて、口と口とがぶつかっただけで、本当にキスしたんじゃないと言っておいたわ。

 それに好きでも何でも無く、ただ仕事で仕方無しに付き合っているだけだとも言っておいたわ。それで良いでしょう金雄さん?」

「うん、そうだな。それが事実なんだからね」

「えーっ! ちょっと、それは無いでしょう。とっても情熱的なキスだったわ。もの凄く嬉しかったのに、まるっきり無かった事にするなんて……」

 ナンシーは少し口をとがらせて言った。冗談半分ではあったが多少本気も混じっている。


「オフタリノコトハ、アトデユックリキカセテモラウワ。ソロソロカイモノニイカナイト、ジカンガアレダカラ……」

「ああ、そうね。じゃあ、この鞄に必要な物は全部入っているから、これだけは忘れないでね。それと、私達、お昼は何処かで食べて来ますから、金雄さんも適当に食べてくれないかしら?」

「うん、ゆっくりして来ると良いよ。俺はこう見えてもちゃんと一人でレストラン位には入れるんだからな。それにそれほど遠出はしないから道に迷うことも無いと思うしね」

「宜しい、それじゃ行って来まーす!」

「カネオサン、ヨロシクネ」

 カランは、ナンシーに見えない様に、ウインクをしてから行った。恐らく手紙を忘れるな、というサインなのだろう。金雄は小さく手を振って二人を送り出した。


 ナンシーと出会ってから初めて金雄は本格的に一人になった。二人が視界から消えた後で、早速ウィチカーニからの手紙を開いてみた。


 四角く折られた手紙は二枚あって、一枚は簡略な地図のようである。もう一枚には短めの文章がしたためてあったが、

『もしかして英文だったら、ギブアップだぞ』

 と、思った。しかしプリンターで印刷されたれっきとした漢字仮名混じりの日本語だったのでひとまず安心した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ