制裁(13)
「アサッテノゴゼンチュウニ、ワタシニツキアッテ、クレナイカナ?」
「あさっての午前中? あさってから試合が再開されるみたいだから、今日か明日じゃ駄目?」
「キョウコレカラ、デカケルトコロガアル。アシタモヨウジガアル。アサッテノゴゼンチュウシカ、アイテナイ」
「そう、で何をするの?」
「カイモノダヨ。アサッテカラ、ビエンターハAクラスデ、タタカウコトニナッタ」
「えっ! ビエンターがAクラスになったの?」
「ハイ、ソレデ、オイワイヲシヨウトオモッテ。ソノプレゼントヲカウノニ、ツキアッテホシインダ」
「カラン、ビエンターのAクラス入りおめでとう!」
「おめでとう御座います!」
金雄も一応祝福した。
「アリガトウ。ナンシーハケイケンガ、ホウフダトオモウ。Aクラスノヒトニ、ナニヲプレゼントスレバイイカ、ヨクワカラナインダ」
「そうねえ、午前中だけで良いのね?」
「ウン、ワルイケド、オネガイスルヨ」
「俺は構わないよ。大分慣れて来たし。午前中だけでも一人で少しだけ羽を伸ばしたいし」
「えっ! 怪しいわね! 変な所に行って遊んだりするんじゃないでしょうね?」
「ち、違うよ。今のは言葉の綾さ。ま、真面目に練習するから大丈夫だよ」
「そう、それじゃそうしましょう。待ち合わせ場所はムーンシティホテルの一階のレストラン、『豊の海』。午前九時でどう?」
「ワカッタ、アサッテノアサクジ、『ユタカノウミ』ダネ」
「それで決まりね。でも、あのビエンターがとうとうAクラスなんだ。随分かかったわね。二連勝はしてもなかなか三連勝は難しいし、勝ち越しそうになると不思議と負けるのよね。
中量級は辛いわね、重いクラスと当たると、やっぱり体力負けしちゃうのよね。でも、そのハンディを乗り越えて、彼は本当に良くやったわ」
「アリガトウ、アノワタシイソグカラ、コレデシツレイスルヨ。ジャア、アサッテタノムネ」
カランは用件が済むと、余程急ぎの用事があるのかラーメンをかなり残して帰って行った。
「バアーイ!」
「どうも」
ナンシーと金雄は手を振ってカランに別れを告げた。二人は勿論ラーメンは残さず食べてからホテルに戻った。
それから数時間ほど互いの個室で仮眠を取って、『月の砂漠』で夕食を取る事にした。互いにまだまだコミュニケーションは不十分だと感じていたので、今夜もまた徹底的に語り明かす事にした。ただしワインは一本だけに決めた。二本では正体が怪しくなる。
「乾パーイ!」
あれやこれやと料理を頼み、ワインの摂取量は減らす作戦である。今夜は赤ワイン一本で二時間は持たせる積りであった。
「ちょっと聞いて良いかな?」
「改まって、何?」
「あのカランという人は、大丈夫な人なのか?」
「どういう意味? 私の大切な友人の一人よ」
「今日のラーメン屋の事なんだけど、彼女、俺達の後を付けて来たんじゃないのか?」
「私を探していたんだったら不思議は無いわ。遠くで見掛けたら、普通後を付けるでしょう? どうしても私に話があるんだから」
「うーん、理屈はそうなんだけど、それならそうと言うんじゃないのか? 何も悪いことをするんじゃないから、そう言えば良い。見掛けたから後を付けたってね。
偶然を装っている様な気がしたんだけど、そのラーメンも随分残して帰ったし。最初から余り食べる気が無かったんじゃないのか? 自然に見せ掛ける為に食べたくもないラーメンを注文した様な気がするんだけどねえ」
「考え過ぎよ。彼女シャイな所があるから、後を付けたなんて言えなかったのよ。それにラーメンを残したのは、元々小食だからだと思うわ。体形を見れば分かるでしょう、女性にしては背は結構高いけど、かなり痩せぎすだもの」
「そうか、そう言われてみればそんな気もするな……」
金雄は何か違う気がしたが自分にも確証が無いので、それ以上の追求は止める事にした。
「それより吉報よ。またまたネットで調べたんだけど、貴方のランクがCクラスの41位になったの。あと一つ勝てばBクラスよ」
「へえーっ、どうしてだろうね」
「この間のシャパール戦は彼の反則負けだから貴方は七連勝した事になるわ。しかも殆どすべて圧勝よ。それが評価されたんだろうって書いてあったわ」
「十二月早々にBクラスなら十二月中旬にはここを出られるかも知れないね」
「そうね。正直な所、私は早くここを出て地上に戻りたいわ。何て言うのかな、太陽が恋しいのよ」
「それは同感だね。ところでナンシーやカランはここを出たり入ったり出来るんだろう?」
「ええ、それがどうかした?」
「でも、出られない人もいるんだよね。何が違うんだろう?」
「ああ、それは犯罪の程度の問題よ。ちょっと言い難い事だけど私やカランは一人だけよ殺したのは。それにそれ以上の事はしていない。それで地上と地下を行ったり来り出来るのよ。ビエンターは三人も殺したから無理だと思うけど」
「誰がそれを決めるんだ?」
「そ、それは浜岡先生が決定するんですけど……」
「彼の判断は絶対に正しいのか? その様な重要な事は、それこそ複数の人達による厳重な審査とかが必要なんじゃないのか? 地上の裁判にだって誤った判決、冤罪という事があるんだからね」
「……、私には答えられないわ」
辛そうな表情になって少し俯いた。