処置室1
小金井が懲罰委員会にかかった。
もちろん村山へのセクハラ容疑である。
この件については、明石は関与していない。
種々の疑惑と、村山が上司の明石に嘆願したことがどこからか漏れ、そういう次第になった。
(……多分、二外だな)
それと院長。
男の男に対するセクハラなど、あの古い男の規範からすると著しく標準を外れる。
恐らく、村山をさらし者にしたかったのだろう。
(……思い通りにはさせない)
大勢の前で辱めを受けねばならないのは小金井だけではなく、村山もそうだ。
事情聴取はそもそも被害者にとって屈辱的なものである。
だが、彼は今回に関しては強気に出た。
あることないこと、小金井に不利になることを証言したのだ。
(恨まれるだろうが)
構わなかった。
院長の思惑から逃れ出ることは大事だったし、何よりも小金井に残ってもらっては困る。
(奴はそれだけのことを俺にした)
そういう風に自分を納得させる。
そして、修造に対しても、改めて攻撃をしかけるタイミングを計算する。
(……年内に片をつける)
今度こそ、義兄は逃げられない。
もちろん、修造も……
(……?)
医局でパソコンを見ると、メールが来ていた。
明石からだ。
(妙だな)
一斉配信ならともかく、村山だけに彼がそんなことをするのは珍しい。
いつもだったら彼は直接彼に言葉を発した。
(……十時に、三階の処置室?)
今日の夜、話したいことがあるからという簡潔な文。
アメリカに帰るのだろうか。
(あれほど言ったのに)
村山は小さくため息をつく
そうして他に打つべき手立てを考える。
明日、懲罰委員会の結論が発表されることになっていたが、そんなことは全て吹っ飛んだ。
(どうすれば、つなぎ止められる?)
篠田で駄目なら万策尽きたと言ってもよい。
とりあえず、明石が言いそうな文言を考え、連関的に答えを模索する。
恩知らずと言って怒鳴ってみせるか、時々はこちらに顔を出すようにせがむか。
(……いや)
村山は目を細めた。
明石がここに残るための手立てはまだある。
彼を呼ぶ相手を消すか、明石の価値を低くするか。
もちろん、この病院のためには明石の価値を下げるような方法は避けたい。ならば、
(ドクタージョーンズとやらを亡き者にする)
もちろん本当に殺さなくても良い。社会的に抹殺すればいいだけのことだ。
そうして村山にはそれができるだけの実力があった。
(もし、話というのがそういう内容ならすぐに動かねば……)
焦る心を抑えて、取り急ぎの業務をこなす。
そうするとすぐに予定の時間になった。
(……とりあえずは行って、話を聞くしかないか)
気は進まなかったが、仕方なしにエレベーターで三階に降りる。
わざわざこんな人気のないところで話をしたがる理由について、村山はいくつかの推論を頭に浮かべてから目を伏せた。
(俺がののしることを想定して場を設けたなら、明石先生にはそれなりの覚悟がある)
一つ深い呼吸をしてから、部屋のドアを開ける。と、
「!」
部屋に一歩入った途端、右頭部に強い衝撃があった。
(……あ)
意識が薄れる……




